先日、関東地方で記録的な大雪が降り、公共交通機関にも大きな混乱が生じました。 一般企業に勤める方の中には、そのような混乱を予想し、いつもより早く家を出た人も多かったのではないでしょうか。
中には会社から始業時間に間に合うよう早めの出発を促された方もいるかもしれません。
では、そのような会社による指示に従うことは、会社員の義務なのでしょうか、それともあくまで会社都合の指示であり従う必要はないのでしょうか。
会社員の義務とは?
一般的な会社員は、会社との間で「労働契約」を結んでいます。
そして、労働契約の内容として、会社員が負う最も基本的でかつ重要な義務は、労働契約の趣旨と内容に従った労働を行う義務、すなわち、労働義務です。
会社員は、労働義務を履行し、労働力を会社に提供する対価として、報酬である給与を受け取っているのです。
また、会社は、会社員が労働義務を果たすように、労働の内容、遂行方法、場所、時間などに関し、合理的な範囲で指揮命令を行う権限を持っています。
出社に関する指示の可否は?
たとえば、ある会社の就業規則において、就業時間が始業午前8時、終業午後5時(休憩1時間)とされている場合、その会社に雇われている会社員は、始業時間から就業時間までの間、会社に対して労働力を提供する義務を負います。
すなわち、原則として、朝の8時までには、自分の席について、仕事をする態勢を整えておく必要があるのです。そして、大雪の日であっても就業日である以上、その義務は生じるものといえます。
また、会社は、上記のように合理的な範囲で労働義務の遂行にあたっての指示を出すことができますので、雪で公共交通機関が遅れることを視野にいれて始業時間に間に合うように行動してほしいとの指示を出すことも可能であるといえます。
したがって、合理的な範囲、たとえば、いつもより数十分早く家を出てくださいという程度の指示であれば、会社の正当な権利行使であるといえ、会社都合の指示とはいえないと考えられます。
どのような場合でも出社指示は適法か
たとえば、自然災害が起こっている場合にも労働力の提供を求めて出社の指示を出すことができるのでしょうか。会社は、雇用契約に基づき、会社員の安全を保障する義務を負っていると考えられています。
したがって、自然災害によって、安全に就業場所までこれない場合や就業場所での安全が確保されていない状況下において、出社を強制するような指示を出した場合、この指示は、会社が負っている安全配慮義務に反しているといえる可能性があります。
今回の大雪では、従業員の帰宅の便宜を図り、また、安全に帰宅できるよう終業時間を早めるなどの措置をとった会社も多いのではないでしょうか。 そのような措置は、上記のような安全配慮義務を考慮した措置といえるのです。
まとめ
ルーティーンのように働いている日々の業務も上記のような法律に裏付けられているものです。
今回は、出社指示という細かい事例に焦点を当てましたが、いざ問題が生じたときに会社員の身を守るのは上記のような法律です。
日々のルーティーンと思わずに今一度、働くことに関する自分の権利(または義務)を考えていくことが大切でしょう。
【執筆者】
楠瀬 健太(くすのせ けんた)
中央大学法学部を卒業後、一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。神奈川県下最大規模の弁護士数を誇る横浜綜合法律事務所に所属。労働問題を始めとする民事全般 から刑事事件まで幅広く取り扱っております。難しく思える法律をできる限り分かりやすくお伝えいたします。
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横浜綜合法律事務所