横浜・山手の坂の上にある、小学校から通ったミッション系の女子校でも、校則スレスレのロリータ風の日傘を愛用したり、学園祭ではゴスロリ衣装でステージを務めたりと、「ロリータのアノ人」として目立っていた井手彩名さん。
「大好きなロリータファッションをもっと気軽に楽しめるものにしたい」という思いを持ち、高1の冬に横浜市の主催するビジネスコンテストに参加し、優秀賞を受賞。
このアイデアを実際にビジネスとして実現してみたいと一念発起して、19歳でパリの見本市に出展を果たしました。
まだ19歳だというの現役女子大生井手さんの行動力には驚かされますが、個人の想いを実現するため、彼女が「クラウドファンディング」や「クラウドソーシング」といった「外部リソース」を駆使していたというそのプロジェクトの全貌を取材しました。
目次
ビジネスとして評価された、買えば10万円はするロリータ服の自作キット
―まず、ロリータファッションを世界に発信するというプロジェクトについて、教えていただけますか?
2013年に横浜市が行うビジネスコンテストに参加したプランは、ロリータ服を誰でも手作りできる制作キットを販売するというものでした。私自身、小さい頃からファッション史が大好きで、学校近くの岩崎ミュージアムというドレスの博物館にも足繁く通っていました。
そうした可愛いファッションを自分でも楽しみたくて、ロリータ服にハマッていたのですが、買えば全身で10万円にもなるのが悩みの種でした。
自分で作れば、お金をかけずにロリータファッションが楽しめるのですが、ロリータ専門のファッション誌についているパターン(型紙)は、裁縫の知識の無い自分には難しすぎて・・・。
それで思いついたのが、制作キットの販売だったんです。
―それで、アンダー22部門優秀賞とオーディエンス賞に輝いたのですね?
そうです、びっくりでした(笑)100件以上の22歳以下のエントリーから書類選考とセミファイナルを経て、3ヵ月ほどで本選でしたが、そこに残ったのは社会人・大学生の方と当時高校生の私の3人だったんです。
私は、自分の見せ方も含めてアピールしたいと考え、ロリータ服でプレゼンテーションを行いましたが、客席には男性の姿のほうが多かったので、まさかオーディエンス賞までいただけるとは思いもよりませんでしたね(笑)
プレゼンでは、日本のカワイイ文化の一つであり外交手段としても注目されるというマクロの視点と、ターゲットとなり得る海外のロリータ好きの女の子たちへのSNSを通じたアンケート結果を交えて訴えました。
実はロリータファッションというのは日本が発祥なんです。それでも「世界」に発信したいと思ったのは、日本の婦人服の市場規模が4兆円あるなかでロリータは200億円と、マーケットとしてはかなりニッチなんです。
必然的に海外も視野に入れようと考えた時に、コンパクトなキットの形態なら輸出しやすいし、外国人観光客がお土産として買ってもいただけるのではと思いました。
クラウドファンディングでビジネスとしての実現可能性を確認
―受賞したプランを、2年半後に実現させたわけですね?
高校は厳しくてアルバイトも禁止でしたから、在学中には動けなかったんです。それでも、卒業から大学入学までに半年の期間があったので、チャンスだと思いました。
このプロジェクトを一通り自分の手でやってみることで、ビジネスをする上で私に足りないものが自覚できますから、それを大学で学ぶことで補っていければ効率も良いとも考えたんです。
販売する場をパリのジャパンエキスポに決めたのは、ブランド実績の無い素人でもブース出展が可能だったのと、日本のアニメ人気が定着しているフランスならロリータも販促しやすいと考えたこと、それに開催時期が7月とタイミングも良かったからです。
―出展にあたって、クラウドファンディングで資金集めをされましたね。
支援者を募れるサイトにプロジェクトを投稿しました。支援の金額ごとにロリータグッズや制作キットを提供するような形式です。クラウドファンディングで支援を募ったのは、自分のプランに人がどれだけ支援してくれるものなのか、反響をクラウドファンディングで確かめたかったのです。
制作キットの金額的な価値と言うか、値決めの参考にもなりましたね。ファンディングのほうは目標額には及ばずでしたが、知らない人たちに自分のプランを知ってもらう難しさを知ることができました。
広報や広告の仕方は、もっと工夫しなくてはいけませんね。
クラウドソーシングでプロのデザイナーから「商品」デザインを募集
―もう一つ、出展にあたって「タイツ」の制作・販売を試みました。
制作キットだけを携えていっても完成形が見えづらいと考え、何か目を引くものが一つ欲しかったのです。
ちょうど当時ロリータの世界でタイツが流行でしたが1足4000~5000円と、なかなか手が届かないモノの象徴だと思い、オリジナルを安価で提供することを思い付いたんです。
デザインをデータで送れば小ロットでもプリントしてくれる会社をネットで見付け、収支の見込みもついたので制作に踏み切りました。
肝心のデザインについては、自分ではできないし、絵心のある友人に頼む手もありましたが、販売するものである以上はプロに依頼すべきと考え、クラウドソーシングを試してみることにしたんです。
―不特定多数の人にアイデアを募るということですね。ここでもネットを上手く活用されていますね。
知人からクラウドワークスの評判は聞いていて、個人がプロに発注する手段として使えるのではと思いました。
気をつけたのは、新しいもの・面白いものを作りたかったので、ロリータに染まっている私のイメージには寄り過ぎないよう、自由に発想いただくことでした。その代わり、ジャパンエキスポというイベントで販売するという目的やターゲットである来場者などのイメージははっきりさせるよう心がけました。
募集項目の書き方については、他の似たような募集案件をたくさん見て参考にしました。おかげで、応募期限まで6日しかなく、ロリータというニッチな分野にも関わらず、20件近くのバラエティに富んだデザインを送っていただけました。
初日から応募があったのも驚きでしたが、お一人で何件も出される方もいたので、途中で私から応募作に星付けをさせてもらい、求めている方向性を感じていただけるような工夫としました。それにより、ますますコンペの質は良くなりましたね。
案件名:【ロリータファッション用タイツのオリジナルデザイン募集】Japan Expo Parisで日本の可愛いロリータファッションを売りたい!
▽採用したデザインと実物
「ひらがな」をデザインした奇抜なアイデアを、マカロンカラーでコーティング
―応募者のモチベーションを引き出すのもお上手ですね(笑)。採用作の決め手はなんでしたか?
まずはパリで売るというので、和と洋の融合がキーワードでしたが、「りんご」「あんみつ」など、ひらがなの単語なら、日本のアニメに親しんでいるフランス人から見てもクールだろうということですね。
また、事前調査によるとフランスではロリータでも真っ黒なゴス系よりは、ピンクや水色などフワフワ系が人気だったので、このインパクトあるひらがな柄をピンクの単色で作ろうと決めました。
もちろん、それ以外にも私自身の好みに合うものがたくさんあって・・・、選考には本当に迷いました(笑)。
▽集まった沢山のデザイン
―そうして作られたタイツや制作キットの反響はいかがでしたか?
それが実は、ジャパンエキスポは確かに日本文化の大好きな方たちの交流の場ではあるのですが、新作展示会であって、新しいゲームを試しに来場されるなど、何かモノを販売するような雰囲気ではなかったんですね。
ただ、3日間の会期中、ヨーロッパのロリータ好きな女の子たちと触れ合うことで、マーケティングの参考にもなりましたし、ブースで興味は持っていただけたので、販路については今後、国内外に関わらずネット販売を考えているところです。
協力者を見つける策としてのクラウドソーシング活用で、起業にも現実味がでてきた
―プロジェクト全体についての感想や手応えはいかがでしたか?
アイデアを形にしていくため、自分で調査したり交渉したりというプロセスはとても面白かったですし、作ったものにも満足です。難しいなと実感したのは、自分がやりたいことに対して協力してくれる人を見つけることですね。
でも、そうした時にクラウドソーシングなどでアイデアをたくさん送ってくださったりと、自分ひとりでは絶対に実現できなかったであろうことができたのには、手応えを感じました。
不特定多数のプロ級の方々によってレベルがブラッシュアップされていく過程もうれしく、頼もしかったです。何かをやりたい時に、こういう相談の仕方があるんだというのはすごく勉強になりましたね。
―今後はどのようにビジネスに関わっていきたいですか?
今回のプロジェクトを通じて、自分は本当に新しい、面白いことを作っていくのが好きだなと気づきました。今はまだ大学生ですし、ストレートで卒業するのが難しい学風なので学業に専念していますが、近い将来はいろいろな才能のある方と協力しながら、新しいこと、面白いことを世の中に発信していきたいですね。
その時には、クラウドソーシングがものすごく力になると思います。
例えば今回、広報や広告が難しいと感じましたが、そのツールであるチラシやバナー制作は、クラウドソーシングにとても向いていますよね。
制作には相応のソフトと技術が必要で、イラストレータやフォトショップなど環境が整っていないとできません。デザイン会社に発注するノウハウはないし、お金も納期もかかりそうです。
それよりは、印刷は自分で手配するから、コンセプトを上手く伝えてデザインのアイデアだけを多数募れば、その中から面白いものを相談しながら仕上げていけると明確にイメージできます。
近々では、自分で勉強会やイベントを開くのに大々的に広報したい時など、クラウドソーシングでまたたくさんの知恵をお借りしてみたいです。きっとまた、選ぶのに困っちゃうほどいっぱいの案が集まるんでしょうね(笑)