web制作のディレクションなどをメインに、フリーランスで仕事をしている橋本紗織さん。
育児との両立のために選んだ働き方ですが、フリーランスのチームに加わるようになってから仕事の幅がぐっと広がったと言います。
今回はフリーランスがチームで働くメリットについてお話をお伺いしました。
2つのチームで仕事を受注
―フリーランス同士でチームを組んで、仕事をされているそうですね。
はい。編集やwebデザイン、翻訳など、さまざまなスキルを持つ育児中の女性フリーランスで「mamimu(マミム)」というチームを作っています。
あと、昨年からは女性制作ギルド「Qrious(キュリアス)」にもジョインしました。
―フリーランス同士でチームやユニットを組む、という働き方。最近、割と耳にしますね。
はい、フリーランスだけどチームで働く、というのは今後もっと増えてくると思っています。
―そう思われるのはどうしてですか?
いろいろな分野で、業務をアウトソーシングする企業が増えていて、社会全体で外注ニーズは高まっている気がします。
そういう中で「こういう仕事を全部まとめて外注したい」といったリクエストが多いのですが、フリーランスって基本、ライター、カメラマン、デザイナーなど、それぞれの職種のプロに分かれていますよね。
それを企業が別々に依頼していたらコストも時間もかかって大変です。
だから、どこか一カ所にまとめて発注したい、というニーズに応えられるフリーランスのチームが重宝されているのでは。
実際、私の周囲でもチームを組むフリーランスは増えている感じがします。
―チームを組む、というのは、フリーランスの側にとっても、メリットのある働き方ですか?
私はフリーランスとして駆け出しのころ、偶然、知った「mamimu」に参加したのですが、ほかのメンバーが受けている仕事を手伝ったり、チームだからできる案件にも取り組んだりして、仕事の幅が一気に広がりました。
あとはチームなので、マネジメント力やコミュニケーション能力が、1人でやっているフリーランスに比べれば磨かれます。
メンバーとは新しい技術やサービスについて情報交換できるし、「これ、どうしよう?」という時にはアイデアをもらえるし、孤独感がないというのも大きいですね。
―確かに。いろいろな意味で心強いですね。
「mamimu」の場合はみんな育児中なので、子どもが急な病気になった時などはお互いに助け合う雰囲気があります。
産休・育休を取りたい時も、チーム内で仕事を融通し合うことができますし。
子どもが寝てから夜にオンラインミーティングや、オンライン飲み会をすることもあるんですよ!
私は家庭の事情で、数ヶ月、仕事に手が付けられない時期があったのですが、その間もチームメンバーがクライアントさんとつながりを保っていてくれたので、復帰後、スムーズに仕事へ戻ることができました。
チームメンバーがいなければ、クライアントさんとの関係も切れていたかもしれないので、本当にありがたかったです。
スキルアップできるのはチームの醍醐味
―もう一つ、参加している女性制作ギルド「Qrious」とは、どのようなチームですか?
代表以外は全員、女性のチームなのですが、3年以上の経験または100サイト以上の実績があることが参加条件になっています。
それぞれの分野で高いスキルと、プロ意識を持つフリーランスの集まりです。
―どうして参加しようと思ったのですか?
フリーランスとして自分なりに仕事をしてきましたが、もっとディレクションのスキルを上げ、さらにステップアップしていくためにはどうしたらいいのか。
いろいろ考えている時にQriousの存在を知りました。
Qriousにはベテランの方が多いので、武道や茶道の世界で言う“守破離(しゅはり)”みたいな感じで、まずは型を学び、それから心技をさらに磨いていくような経験ができそうだなと思いました。
―参加してみて、どうでしたか?
メンバー個々のスキルの高さはもちろんですが、知見や問題解決能力がすごくて、案件の回し方、コミュニケーションの取り方、問題の対処法など、すべてが勉強になります。
とにかくスピード感と無駄のないやりとりが刺激的ですね。
―フリーの立場でも、チームならスキルアップの機会が増えるということですね。
はい。独りよがりにならず、お互いにスキルを高め合えるのはチームで仕事をする醍醐味だな、と思います。
―では今は、チームでの仕事がメインに?
月によって流動しますが、個人で受けた仕事をチームにお願いすることもあるので、今はチームで取り組む仕事が全体の7、8割を占めています。
フリーランスならではの自由さを保ちつつ、チームになった時に合わさる多様なスキル・経験で新しい仕事にチャレンジしていけるのは、今の私にとっては最高の働き方です。
―逆にチームで働く難しさとか、課題はありますか。
会社ではなく、あくまで個人事業主の集まりなので、報酬のやりとりなどが多少、面倒だと感じることがあります。
何かクラウドソーシングのサイト上でも、チームで仕事を受注し、それぞれに報酬が支払われるようなシステムができたらうれしいです。
あとは何も問題がなければ良いのですが、もしトラブルが起きたらチーム全体の評判に関わるかもしれません。
個人事業主ではあるけれど、チームとして仕事をしている、という意識と責任感は大事ですよね。
何かあった時の補償などリスクヘッジについても、常日頃から考えておかなければいけないと思います。
ディレクションの市場価値を高めたい
―フリーランスの道を選んだきっかけを教えてください。
大学卒業後は2つの会社で、法人営業や新規事業の立ち上げに携わっていたのですが、妊娠を機にいったん専業主婦になりました。
でも働きたい気持ちが強かったので、“保活”を頑張りつつ、これからどうやって働いていくかを模索して…。
いろいろな人とのつながりが増える中で、あるwebサービスの立ち上げに参画することになったんです。
その会社では広報やユーザー獲得施策を担当し、役員も務めていたのですが、第2子を授かって退社。
育児と仕事を両立するため、出産して3カ月後からクラウドソーシングでweb制作の仕事を受注するようになりました。
本格的にフリーランスとしてやっていこうと動き始めたのは、第2子が保育園に入ってからです。「mamimu」にも、このころ出会いました。
―今のお仕事はどのような感じですか?
現在は、web制作を中心にディレクション、デザイン、運用を行っています。
運用や定期の制作は4、5社ほど定期的に仕事をいただいていて、あとは単発の制作案件です。
webはwordpressやECサイトが多く、SNS運用や紙媒体のDTPを担当することもあります。
企画、プランニング、分析、リポート、PPTの制作など、面白そうな仕事は何でもお受けしていますが、最近はディレクションの案件をメインにしています。
―ディレクターの道を志したのはどうしてですか?
今までは割と“何でも屋”だったんですが(笑)
今後のことを考えると、やはり自分のスキルを見極めて何かに特化していくことが必要かな、と実感しました。
それで、自分はどういう道に進むべきか、いろいろ模索する中で、これまでのスキルを一番生かせるのはディレクションかな、と思ったんです。
私は好奇心が旺盛なので、さまざまな情報を幅広く得てお客さまにより良い方法を提案するのが得意。
そういう性格的な特性も考えて、ディレクターになろうと決めました。
―なるほど。ディレクションの社会的なニーズはどのようなものと感じていますか?
実はweb制作の案件で、まだまだディレクター不在というケースが多いんです。
ディレクションを責任もってできる人がいないと制作過程で混乱が生じたり、抜けや漏れを見逃したり、後からリニューアルしにくいサイトを完成させてしまったり‥‥。
ディレクションの価値や存在意義みたいなものを、ちゃんと認識しているクライアントさんが少ないので、まだまだお金にはなりにくい領域なのかもしれません。
これからもっと、ディレクションの市場価値を高めていかなければいけないと思っています。
チームでの働き方に可能性を感じて
―先日、和歌山県田辺市にワーケーションに行ったそうですね。私の故郷なので、多分、行かれた場所は全部、知っていますよ(笑)
えっ、びっくりです!!
―ですよね! 私も驚きました。ワーケーションとは、地方へ行って仕事をする、という感じですか?
はい。実は「mamimu」の代表が和歌山県に移住した関係で、メンバー5人ぐらいで訪問しました。
「TETAU(てたう)」という地元のクリエイティブチームとも仲良くさせてもらっているので、彼らが事務所にしているコワーキングスペースを仕事場としてお借りして。
私は子どもを2人連れて行って、いつものように仕事や打ち合わせをしつつ、観光もたくさん楽しめました。
和歌山県はワーケーションの誘致に力を入れているんですよね。
普段とは違う環境で仕事をすると刺激もあるし、楽しいし、とても良い経験になりました。
―面白いですね!
滞在中はジビエの解体経験や、廃校活用した農業施設を見学したりもして、子どもたちと一緒に地域の魅力を満喫できました。
今までとはちょっと違う働き方も、当たり前になったらいいな、とひそかに思っています。
―最後にこれからの展望などお聞かせいただけたら。
フリーランスや、複業をする人が増えているのはとても良いことだと思います。
一方で、単なる作業代行者ではなく、ちゃんと仕事上のパートナーとして認めてもらうことが必要だと思っていて。
ただ成果物を納品して終わりではなく、その後も一緒に運用しながらそのサイトやプロジェクトを育てていく、みたいな関わりをしたいです。
そういう意味でもチームであれば長期的に安定した運用ができ、先を見越した提案もしていけますよね。
だからこそ、チームでの働き方に私は大きな可能性を感じています。
チームのメンバーと、これからどんな新しい仕事にチャレンジしていけるのか、本当に楽しみです。
取材・文:吉岡名保恵
新卒で教育系ベンチャーに就職し、法人営業に従事。その後、ゲーム開発会社で社内事業立ち上げを経験した。結婚・産休を挟み、いったん専業主婦になった機会でクラウドソーシングに登録。フリーランスとして働き始めた矢先、ウェブサービス立ち上げのボードメンバーに誘われ、起業に参画したものの、第二子出産を機に退職。産後、再度フリーランスに挑戦し、現在はweb制作のディレクションなどをメインに請け負っている。育児中フリーランスチーム「mamimu」、女性制作ギルド「Qrious」所属。