より良い働き方を模索し、4つの職場を経験したのち、フリーランスのwebデザイナーになったyurincoさん。働きに出ていたころと比べても、子育てとの両立を考えても、いまの働き方は満足度100%以上だとか。
その言葉の背景には、生産性を求めつつ、人とのつながりを大事にし、クオリティーの高い仕事を成し遂げる強い想いがありました。
100%自分の評価につながる気持ちよさ
―8年間にわたって、さまざまな職場を経験される中で、ご苦労もあったようですね。大変だったのは、どういうところですか?
人間関係のストレスが一番大きかったですね。変だと思うところは上司にでも意見を言ってしまうタイプなので…(笑)
パワハラみたいな嫌がらせを受けたこともあれば、病気になっても休ませてもらえず、結局入院したようなこともありました。
ほかにも、やりたかった仕事でもいざ始めてみたら待遇が悪かったり、将来像を描けなかったり…。
何より、私自身がせっかちな性格、というのもありますけれど、効率よく仕事をしたいんです。
でも会社だと、自分が無駄に思うこともやらなければいけないし、ほかの人に合わせなければいけないことが多いですよね。
たとえ、ちゃんと自分の仕事を終えて定時に帰ろうと思っても、申し訳ない気持ちになってしまうのって、何だか違う気がして。
もっと効果的に時間や能力を使いたければ、自分に会社勤めは合わないのかな、と思うようになりました。
―そういうこともあって、フリーランスに転向を?
はい。派遣で勤めていた会社を任期満了で退職し、失業保険期間中にクラウドソーシングの存在を知りました。
それで、もともと美術系の短大を出ていたし、それまでの仕事でバナー制作やECショップの立ち上げなどを経験していたので、デザインやweb制作の仕事があるならやってみようと。
最初は、ちょっとしたお小遣い稼ぎの気持ちでクラウドソーシングを始めたので、またどこかに就職することも考えていました。
でも、ちょうど妊娠していたので、産後、時短で働きに出るのであれば、フリーランスでweb制作の仕事を受けた方がいいのかな、とだんだん思うようになって。
それで、コーディングについて勉強し直したり、自分のホームページを実験的に立ち上げたりしながら、ちゃんとweb制作の仕事が受けられる体制を整えていきました。
考えてみたら、親が会社員ではなかったので、私自身も会社勤めでなければいけない、みたいな固定概念はもともとありませんでした。
子どもが生まれたら家にいるお母さんになりたい、というイメージが何となく頭にあったのも、フリーランスで頑張っていこうと決めたきっかけです。
―実際にフリーランスで仕事を始めてみてどうでしたか。
web制作の仕事をしていると、コーディング自体が楽しかったし、細かい作業が自分に合っているなと思いました。好きな仕事だと、どんどんスキルも上がっていくし、それにつれて単価も上がっていくのもやりがいになって。
考えてみれば、勤めていた8年間で自分の実力がそのまま“まるっと”100%認めてもらえたり、実績として残ったりすることはなかったんですよね。
その点、フリーランスだと100%私の取り分だし、褒めてもらえたら全部が自分の評価になるわけで。
何か分からないことがあったときに自分でどうにかしなければいけない、という意味では、最初はかなり苦労もしました。
でも、トータルで自分をプロデュースする方がワクワク感はあるし、達成感も大きい。何より、そうやって自分でやったことすべてが、自分の評価につながる、というのが気持ちよかったです。
―美術系の学校を出られたことも役に立ちましたか?
はい。一応、センスにはそれなりに自信があったし、色づかいのセオリーなどこれまで学んできたことが、ようやくカチッと仕事にハマった感じがありました。
それに伴って仕事をする楽しさも、お金も付いてきたのがやりがいにつながったと思います。
―ご苦労はあったと思いますが、いろいろな職場で働いてきた経験も生きたかもしれないですね。
勤務していた8年間のうち6年ぐらいは接客業でした。
相手あっての仕事、という意味では、接客のスキルは役に立っていますね。
メール一つとっても、言葉遣いなどに違いが出ているはず。
いろいろなことがありましたけれど、これまで働いてきたことには、すべて意味があったんだな、と思っています。
メリハリを付けて、子育てや趣味も両立
―フリーランスになったのは、子育てとの両立のため、という理由もあったそうですね。
はい。新生児のころは寝ている時間も長いので、日中でも仕事ができました。
でも子どもが生後5カ月ぐらいのとき、スパッと日中に仕事をするのは辞めようと決めたんです。
―それはどうしてですか?
授乳や抱っこしながら、無理やり仕事をしていた感じですごく疲れて。お昼寝中も、いつ起きてくるか気になるので、結局、仕事の進ちょくが悪いし…。
そもそも、子どもと一緒に過ごしたいからフリーランスになったのに、一日中、仕事のことで頭がいっぱいになっているのってどうなのかな、って思ったんですよ。やっぱり、子どもの成長ってそのときだけのものなので、しっかり見守りたいし。
それ以来、日中は基本、仕事をやらないようにしました。周囲からは専業主婦に思われているかもしれません(笑)
―じゃあお仕事は主に夜ですか?
はい。子どもは2歳になってから、夜、起きてくることはほとんどなくなったので、集中したい仕事は夜にやっています。
あと、子どもは2歳から週2回、幼稚園のプレ保育(未就園児クラス)に行っているので、預かってもらっている間は日中も仕事が可能です。
月に1、2度の打ち合わせは、主にその時間を利用しています。
―夜にお仕事をしていると、睡眠不足になりそうですが…。
今のところ、寝られる日に寝溜めしておけば大丈夫ですね。
あと、自宅で仕事をしている良さで、疲れたらいつでも体を休められるので、マイペースに仕事はできています。
それに4月になれば子どもが幼稚園に入園するので、日中もガッツリ仕事ができるようになる予定です。
その分、夜は自由に自分のために使いたいなと思っていて。
実はいまキックボクシングにすごいハマっているんです!
―キックボクシング? 足も使うんですか?
はい。手も足も使うボクシングです。もともと産後のダイエット目的で、託児付きのボクササイズでジムに通い始めたのがきっかけで始めました。
だんだんとキックボクシングの楽しさに目覚めて、いまは夜、夫に子どもを見てもらっている間、本格的なプロ養成の練習をするようになりました!
そのうち試合にも出たいと思っています。
目標の達成を目指して、体を鍛えていくのは結構好きなタイプなので。ジムで頑張っている他の人たちを見ていると刺激にもなるんです。
クライアントさんとのコミュニケーションを大事に
―フリーランスになって4年目ということですが、お仕事はどのような感じですか?
いまはマネジメント、企画、ディレクションなど、webサイト制作全般を請け負っています。雇用形態としては、直接契約の仕事がほとんどですね。
―どういうきっかけで、直接契約の仕事を受けるようになりましたか?
クラウドソーシングの仕事を始めて2年ぐらいたったころ、イベントに登壇したことがあったんです。それがメディアに紹介されたので、ほかのイベントに呼ばれることも増えて。
いろいろなイベントや懇親会などに顔を出していたら、フリーランス仲間がどんどん増え、仕事のお声がけもたくさんいただけるようになりました。
仕事を依頼してくれる窓口が増えると収入も安定してきて、いまは特に営業をしなくても、毎月、仕事のある状態が続いています。
自分で仕事を取っていく力も付いてきたかもしれないですね。
―人との出会いがきっかけだった、ということですね。
はい。直接契約の仕事をするようになってから気づいたんですが、やはり対面での打ち合わせとか、それが難しいならSkype で話すぐらいはした方が、後々の関係は良いですね。
お互いに顔や声、話し方とか、人となりが少しでも分かった方が、この人と一緒に仕事をしたい、という感情が生まれるし、緊張感も生まれる気もします。
以来、対面で、せめて電話で声を聞いたうえで、仕事はしたいと思うようになりました。
―クラウドソーシングの仕事だと、オンライン上でのやりとりが中心だった、ということですか。
はい。専用サイトの中でのやりとりや、Chat Workの利用で連絡を取り合うことが多かったです。ただ、子どもが小さいころは、落ち着いてSkypeをする時間もなかったので、オンラインのやりとりだけで仕事ができるのはありがたくて。
クラウドソーシングのシステムは本当に革新的だと思いました。
でも、便利だなと思う反面、オンライン上でのやりとりだけだと、相手との関係が希薄だと感じる部分はどうしてもあって。
―どういうときに感じましたか?
オンラインだけで連絡を取り合っていると、実際に会わないわけだし、何を言ってもいいやとか、最悪、途中でスルーしてもいいか、とか思う人もいるかもしれないですよね。
実際、ずっといい感じでやりとりをしていたのに、急にブチ切れてくるクライアントさんもいて…。
―そうならないためには、どうしたらいいと思いますか?
クライアントさんもいろいろなので、相手をよく見ることが何より大事です。
慣れてきたら、この人とは合わないなとか、無茶な要求をしてきそうだな、とか、メールの文面だけでも分かるようになってくるのですが、最初のうちは意識して気を付けた方がいいですね。
オンラインだけで相手を見極めるのが難しいなら、対面やSkype、電話での打ち合わせをお願いして、納得したうえで仕事を始めた方がいいです。
もしメールだけのやりとりだったとしても、相手を意識したコミュニケーションを心がけた方が、あとにつながっていくのではないでしょうか。
仕事を始めたばかりのときは、こちらからいろいろ、要求したら嫌がられるかな、とか心配になりますよね。
でも、だれだって自分の時間を使ってやりとりをするわけだから、相手をちゃんと見極めて、自分の主張はちゃんとしていくべきだと思います。
安請け合いせず、自分を守る
―ほかに何か、これまでの経験で感じていることはありますか?
クラウドソーシングに限らず、フリーランス全般に見られることのようですが、クライアントさんの話を聞いていると、できないのにできると言って仕事を受けてしまう人も多いそうです。
それで結局、やっぱりできないとなって、案件の進行に穴が開いてしまうとか…。
―フリーランス全体の、信用に関わる話ですよね。
本当に。私はコーディングの仕事を始めたころ、できないことは最初からクライアントさんにお伝えしたうえで、それでも仕事をさせてもらえるか、聞いていました。
それで、かえって真摯(しんし)な人だと評価してもらえたみたいで、信用につながった気がします。
なので、自分ができること、できないことをまず明確にするのは大事なことですね。
―ツールや仕事環境へのこだわりも持つようになったとお聞きしました。
はい。フリーランスを始めたころは、お金がなかったので、ボロボロのノートパソコンや、100円均一のイヤホンを使うぐらい貧乏性でした(笑)
でもやっぱり動作や反応が遅く、性能が劣る分、ストレスが溜まりました。
それで少しずつスペックの高いものを買いそろえ、精鋭メンバーみたいなツールをそろえていったら効率よく作業できるようになって。
結果的に仕事には良い影響が出ていると思います。
同じように仕事場は自宅ですが、気持ちよく作業できるよう、小まめに片付けや掃除をしています。
コーヒーやお茶は常備して、頑張ったあとは、ご褒美のスイーツも欠かしません!
―フリーランスになったばかりの方にアドバイスするとしたら、どのようなことが考えられますか。
私は最初、自分は未熟だし、勉強になるなら、という思いで、安い価格で仕事を請けていたことがあります。
でもその後、自分のスキルが上がって、前よりずっといい成果物が作れるようになっても、その当時のクライアントさんは、最初の値段以上に報酬を上げてくれませんでした。
ただ、安く仕事をしてくれる人、みたいに見られていたようで、高い報酬を提示すると「調子に乗っている」と言われることまであって…。
やっぱり、自分が下を見ちゃうと、相手からも下に見られてしまう、ということは忘れないでほしいです。
それから、たとえば修正は2回までで、それ以上は別料金になります、ってハッキリ最初から言っておいた方がいいですね。
そう言っておかないと、何回も修正してほしいと言ってくるクライアントさんもいるので…。
そう言うことで偉そうだと思われても、これが私のやり方なんで、と通した方が結局は自分の身を守ることにつながると思います。
ただ謙虚な気持ちや、相手のことも考えて融通を利かせることも必要です。やはり経験を積んで、肌感覚でつかむしかないですね。
―最後に、これからのお仕事の目標や展望などありましたら。
子育てもだいぶ落ち着いてきたので、サイト運営の仕事も始めています。そういった責任ある、固定案件の仕事を今後は増やしていきたいですね。
あと、友人の同人誌活動を手伝って、作品にイラストを付ける経験もしました。ほかにも少しずつ、イラストを描くお仕事もいただいているので、これからもいろいろな人とのご縁を大事にしながら、お仕事の幅を広げていきたいです。
取材・文:吉岡名保恵
美術短大を卒業後、古着屋や玩具店での販売職、家電量販店での光回線契約業務、派遣社員として大手IT企業勤務などを経て退職し、その後、クラウドソーシングをきっかけにフリーランスに転向。Web制作全般、マネジメント・企画・ディレクションなどサイト制作に関わる業務を請け負っている。最近は同人誌の制作にも参加し、イラストを付けている。