個人事業主として開業後、事業が順調に拡大していくと、当初は自分一人でやっていた業務が次第に手が回らなくり、家族に手伝ってもらうことがあると思います。
また、周りの個人事業主でも「両親や妻に仕事を手伝ってもらって、給料を支払っている」などの話を聞くことも少なくないのではないでしょうか。
そこで、今回は家族を従業員として雇用するにあたってのメリットやデメリット、税務上の注意点などを説明します。
「家族を従業員にする」とは
まず初めにお伝えすることは、家族従業員に給料を支払う際の税金の取り扱いです。
所得税の計算にあたっては、家族従業員に対して支払われる給料は原則として経費として認められません。ただし、以下のような条件を満たす場合には家族従業員への給与も、例外として、経費として認められます。
① 別生計の家族従業員への支払い
② 同一生計の家族のうち、事業専従者に対する支払い
①別生計の家族従業員への支払い
個人事業主と別生計の家族従業員は、その支給額が適正と認められる場合には、給料を支給しても経費として認められます。
「別生計」というと難しく感じられるかもしれませんが、
- 事業主と別の場所に住んでいる
- 事業主と生活費などの財布が別である
ということがあげられます。
②同一生計の家族のうち、事業専従者に対する支払い
同一生計(「同居している」または「生活費などの財布が一緒である」)の親族に対する給与については、その親族が事業専従者に該当する場合のみ、経費として認められます。
事業専従者とは、
- 同一生計の配偶者や親族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その個人事業主の事業を年間6ヵ月以上手伝っていること
の要件を満たしている場合に該当します。
なお、青色申告を行う個人事業主が事業専従者へ給料を支払う場合には、事業専従者へ給与の支払いを開始しようとする年の3月15日(新たに専従者がいることとなった場合には、その日から2か月以内)までに
- 青色事業専従者とする人の氏名
- 仕事内容
- 給料の金額(月額や賞与の金額・支給日など)
等を記載した「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。
家族を従業員にするメリット・デメリット
家族を従業員にすることについての税金の取り扱いの説明をしました。
では、具体的に家族を従業員にすることで得られるメリット・デメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
メリット
①個人事業主に集中する所得を分散することで、節税になる
家族を従業員にして、給料を支払う場合の最も大きなメリットはこちらだと思います。
日本の所得税の性質として、1人の人間が大きく儲けるよりも、何人かの人間が少しずつ儲ける方がトータルとして税金を安くすることができます。
仮に1人の人間が1,000万円を単独で稼いだ場合の税金は年間約260万円の所得税・住民税となります。
一方、その1,000万円を、仮に500万円、250万円、250万円と3人に分散した場合には、3人トータルでの税金は年間約160万円となり、1人に所得が集中しているよりも年間約100万円程度税金を安くすることができます。
したがって、個人事業主1人に集中する所得を家族に分散することで税金を節税することが可能となります。
②従業員となる家族側では給与所得控除を受けられるので、節税になることができる
あわせて享受できるメリットとしては、家族従業員側では給与所得控除が受けられることです。
個人事業主の場合であると、事業で得た収入から実際にかかった経費を差し引いて所得税を計算しますが、給与収入者は、給与収入から給与所得控除を差し引いた額に税金が課されます。
ここでのポイントは「給与所得控除が実際に給料を得るために経費として使った金額を用いるのではなく、一定の金額を経費とみなして差し引くことができる」という点です。
したがって、仮に給与収入を得るために使った経費が0であったとしても、年間で最低65万円は給与収入者の経費とみなして、収入から差し引くことができます。
仮に家族従業員が、その個人事業主から年間200万円の給料をもらった場合には、その200万円に対して直接税金が課せられるのではなく、
200万円(給与収入額)-78万円(給与所得控除額)=122万円
に対して税金が課税されることとなります。
したがって、こちらの給与所得控除と①の所得の分散をうまく活用することで、税金を上手に抑えることができるのです。
デメリット
①配偶者控除、扶養控除が受けられない
事業専従者として届出を行った場合、その方は配偶者控除(年間38万円)、扶養控除(年間38万円~63万円)の対象にすることができません。
仮にその配偶者の所得が年間38万円未満などで、本来であればその個人事業主の扶養に入ることができる所得であったとしても、適用を受けることは不可能となります。
「扶養家族」と「家族従業員」、どちらがメリットが大きいのか
家族を従業員にすることのメリット・デメリットを述べました。
それでは、「家族を従業員にして給料を支給する場合」と「家族を扶養に入れた場合」とでは、どちらの方がメリットが大きいのでしょうか?
そこで、「①給料を支給する場合」「②家族を扶養に入れた場合」の税金の比較を行いました。
■前提
- 個人事業主の収入は2,000万円、経費1,000万円
- 個人事業主は妻へ年間150万円の青色事業専従者給与を支払う
- 所得控除は簡便的に基礎控除と配偶者控除のみとして計算を行っている
「①給料を支給する場合」では、妻を事業専従者としているため、配偶者控除を受けることはできませんが、妻へ給料を支給して所得を分散させているため、妻を含めての年間の税金は214万円となります。
一方、「②家族を扶養に入れた場合」では、妻を扶養としているため、配偶者控除の適用を受けていますが、所得分散を行っておらず、トータルとしての税金は年間247万円となり、①よりも年間30万円程金額が大きくなっています。
したがって、事業主の所得の状況にもよるかと思いますが、一般的には家族を扶養とせず、事業専従者として給与を支給した方がトータルの税金が安くなることが多いです。
家族を従業員にする場合の、税務上の注意点
それでは、個人事業主は任意に家族従業員の給料を設定しても良いのでしょうか?
結論としては、その業務内容や勤務状況から見て、あまりにも高額である場合には、税務調査で否認され、その個人事業主の経費として認められない可能性があります。
あくまで、専従者給与は労働に対する対価として支払われるため「その仕事内容からその給料が適正かどうか」というところが見られます。この場合の「適正かどうか」という基準は仮に一般の従業員として雇った場合に支払う給料と比較しての判断となります。
したがって、例えば週に3回しか業務の手伝いをしておらず、業務内容もお茶出しや電話対応のみ等の家族従業員に「年間で1,000万円の給料を支払っている」などは「さすがに業務内容からして高額すぎる」と指摘を受けることになるかと思われます。
よって、家族従業員の給料を設定する際には、その業務内容と勤務状況からトータルで判断して、あまりに高額になりすぎないようにすることが重要です。
また、税務署は事業専従者の勤務実態がキチンとあるか、ということにも目を光らせています。したがって、税務調査が入った際の調査官の質問に受け答えができるように、家族従業員は日頃より自分の勤務状況や業務内容を把握しておくことが大事です。
家族を従業員とすることによる節税効果
家族を従業員として雇う場合には、税務上の条件はあるものの、うまく所得を分散できれば大きく節税効果が見込めます。
現在、家族に事業を手伝ってもらっている場合には、家族従業員として雇用し給料を支給することを検討することもありまかもしれません。
【執筆者】
七島 悠介(ななしま ゆうすけ)
2010年国内大手税理士法人に入社。東京本部にて、上場会社の税務申告及び相続税申告を担当。同年税理士試験に合格。その後、福岡事務所において相続税申告、富裕層向けコンサルティング、事業承継コンサルティング、組織再編コンサルティングなどの資産税業務を主に担当。また、資産税業務のみならず、M&Aの企業価値評価、持分無し医療法人への移行サポート等、幅広い業務を担当。その傍ら、富裕層を対象とした相続対策セミナー講師を務める。
現在、税理士法人アイユーコンサルティングの福岡事務所長として、通常の税務顧問業務に加え、富裕層向けコンサルティング、事業承継コンサルティング、医療法人成りサポート等を担当し、相続・承継のスペシャリストとして活躍中。
▶所属している税理士法人:
税理士法人 アイユーコンサルティング