【税理士解説】噂の子無し世帯増税とは?影響を受けるのは「年収○円以上」の世帯

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昨年度、政府が「年収が800万円〜900万円を上回る」かつ「子どもがいない世帯」を対象とした増税案を検討していることが判明しました。

現時点で、まだ国会承認等は得ていないものの、本当に改正されることになったら…

「私たちの生活にどのような変化が起こるのか」、現役税理士に分かりやすくポイントをまとめてもらいました。

 

税制改正の背景は

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平成30年の所得税の税制改正背景には「働き方改革を後押しする」というものがあります。

かつては、学校卒業 → サラリーマンとして1つの会社で定年まで勤める → 老後は年金生活といったライフコースが典型的でした。

しかし、経済社会の著しい変化の中で、働き方が多様化しており、「フリーランスとして仕事を請け負う人」「子育てしながら在宅で仕事を請け負う人」など会社に属さず、給与ではない報酬を得る人が増えつつあります。

そこで、働き方改革を後押しする観点から、給与のみに適用される給与所得控除を引き下げし、どのような所得にでも適用される基礎控除を引き上げる、という改正が検討されています。

<用語の解説>

■給与所得控除

会社員の所得税や住民税などを計算するうえで、給与収入から差し引く概算経費のこと。スーツ代や事務用品など給与を得るために支出したであろう経費を給与収入に応じて計算する。下限は65万円であり、給与収入が増加するに応じて上限220万円までの控除がある。

 

■基礎控除

全ての納税者が所得の種類や金額に関係なく無条件で認められている38万円の控除。

 

この法案で何が変わるのか

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まず、この法案で何が変わるのかを以下箇条書きで列挙します。

  1. 給与所得控除の額が、どの世帯も一律で10万円少なくなります。
  2. 給与所得控除の上限が見直しされ、220万円→195万円になります。
  3. 給与所得控除の上限が適用される収入金額が1000万円以上→850万円以上に拡大します。
  4. 給与収入が850万円以上であっても、23歳未満の扶養親族や特別障害者控除の対象となる扶養親族が同一生家計内にいる個人については、今回の変更で負担は増えません。
  5. 基礎控除の額が一律10万円増えます。
  6. 誰でも一律に認められていた基礎控除の額に上限が設けられます。合計所得金額が2500万円超の個人については基礎控除がゼロ円となり、2400万円以上2500万円以下の個人は基礎控除が3段階で減少します。
  7. 平成32年分の所得税から適用されます。(住民税は平成33年度分から適用)

 

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※括弧書きは、住民税の基礎控除額

 

どういう世帯が影響を受けるのか 

給与所得控除が一律10万円引き下げられますが、基礎控除が10万円引き上げられるので、年収850万円以下の場合は、改正後でも税負担は変わりません。

一方で、年収850万円以上で介護・子育てのない世帯は増税となります。

影響なしの世帯

  • 年収850万円以下の世帯 
  • 年収1000万円以下の介護・子育て世帯

影響ありの世帯

  • 年収850万円以上で子供なしの独身の方
  • 年収850万円以上で介護者なしの独身の方
  • 年収850万円以上で子供はいるが子が24歳以上の方
  • 年収1000万円以上の世帯 

 

年間にすると、どれくらい変わるのか 

この改正により負担が増えるのは年収850万円以上の会社員です。

年収1000万円では年間4.5万円、1200万~2000万円では年間6.5万円の負担増となります。

年収が3000万円なら年間31万円の負担増と増税インパクトは大きくなります。

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※税額は所得税、復興特別所得税、住民税の合計額となります。

※社会保険料等は考慮しておりません。

※基礎控除のみを考慮しております。

 

この影響を受ける人は子育て世帯の何%なのか

年収800万円以下が9割以上を占めており、増税対象者は給与所得者の4%程度にあたる230万人と言われています。

子育て世帯の所得制限で影響を受ける項目には、高校の無償化や児童手当、子どもの医療費助成(所得制限は地域によります)があり、おおよそ年収1000万円超の子育て世帯にとって給与所得控除の上限見直しの改正は歓迎し難い改正でしょう。

 

まとめ

平成31年10月1日からは、消費税が10%に増税されます。

近年の税制改正は、個人増税・法人減税の方向性で今後もこのトレンドは変わらないものと考えられます。年収の約20~25%程度が税金関連で天引きされていますが、将来、その天引きされる税金が増える可能性は十分に考えられます。

「給与の手取りは減り」「消費税も増税される」となると個々人が副業をするなどの『働き方改革』を考える良いきっかけかもしれませんね。

 

【執筆者】
神谷 智道(こうや ともみち)

福岡の中堅税理士法人に入社し、法人・個人の一般事業会社及び特殊法人の顧問業務に従事。その後、北九州の税理士事務所にて医業・製造業・小売業・不動産業・飲食業・理美容業・サービス業など幅広い業種の顧問業務を担当。特に、法人税・所得税・相続税等、各種シミュレーションに基づいた総合的な事前予測・対策を強みとしている。その傍ら、事業承継対策における自社株式の評価や相続税申告及び相続対策などの資産税業務も行う。

現在、税理士法人アイユーコンサルティングの北九州事務所長として新規顧客の開拓、キャッシュフロー改善コンサルティング、助成金活用サポート等を担当し、既存顧客の資金不安を解決させ企業成長をサポートするため経営者の身近なアドバイザーとして活躍中。

▶所属している税理士法人:
税理士法人 アイユーコンサルティング