加害者にならないために! 今一度知るべき「セクハラ」「パワハラ」の正しい定義

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世間を賑わしてしまっている「セクハラ」「パワハラ」の問題。意図せずその加害者となってしまったとしても、「昔は~だった…」「俺の時代は…」という弁解は通じません。

今一度、法律的な観点から、その定義や意図せず加害者とならないために気をつけるべきことを現役弁護士にまとめてもらいました。

 

セクハラ・パワハラは身近な法律問題

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最近では、ニュース、新聞などでセクハラ・パワハラという言葉を目にすることが多くなり、働く人にとって身近な法律問題といえるかと思います。

しかしながら、実際にセクハラ・パワハラでトラブルになるケースでは「意図せずそのような行為をしてしまっていた」という人もいるのでしょうか。

無用なトラブルに巻き込まれないように、セクハラ・パワハラの意味や気を付けるべき点を法律的な観点から確認していきましょう。

 

セクハラ・パワハラとは

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まずは、セクハラ・パワハラの定義を確認していきましょう。

 

セクハラの定義

「セクシュアル・ハラスメント」いわゆるセクハラの定義は、実は法律でしっかりと定義されています。

男女雇用機会均等法では「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること」と定義されます。

2007年まで男女雇用機会均等法ではセクハラの対象を女性に限っていましたが、現在は男性もセクハラの対象に含まれています。

 

この定義によれば、セクハラは、

  1. 解雇等の不利益な処分を持ち出し、性的な言動をし、性的な関係性を強要するものと
  2. 性的な関係性の強要がなくとも、性的な言動によって職場環境を害し、働きにくくするもの

という2つに分けられるそうです。

厚生労働省のセクハラに関する指針では、

1のセクハラを「対価型セクシュアル・ハラスメント」

2のセクハラを「環境型セクシュアル・ハラスメント」

と呼んでいます。

 

パワハラの定義

厚生労働省によれば、「パワーハラスメント」は「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています(厚生労働省:「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」参照)。

典型的なパワハラは、職場の上司が部下(職務上の地位の優位性)に対し、部下の人格を否定するような言動を行うなど(業務の適正な範囲を超える)して、精神的な苦痛を与えることが挙げられます。

しかし、厚生労働省の定義によれば、上司と部下という職務上の地位だけではなく、人間関係の優位性も背景に含まれ、特定の者に精神的・身体的な苦痛を与える行為だけではなく、職場の環境を悪化させる行為も含まれることになります。

 

自分が加害者にならないためには

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職場を不快なものにするだけでセクハラ・パワハラになる

上記定義で確認したとおり、特定の人を不快にする場合はもちろんのこと、職場の環境を不快なものにしたり、悪化させただけでもセクハラ・パワハラになり得ます。

直接の相手は「自分のことを受け入れてくれているから大丈夫だ」大半の人は自分の話を面白がってくれていると思っていても、職場には、その言動を不快に思っている人がいるかもしれません。

個人と個人の関係だけではなく、職場全体に目を向けて自分の言動に気を付けるべきと言えるでしょう。

 

常識・社会通念は時代によって変わります

意図せずセクハラ・パワハラの加害者になってしまう場合の多くは、加害者と被害者との間に価値観の相違があります。

加害者の価値観からすれば単なる冗談であるとしても、相手によっては不快なものであることがあります。

加害者の価値観がその時代の常識・社会通念とずれてしまっている場合に職場の人との価値観の相違が生じやすくなるでしょう。

価値観は時代によって移りゆくものです。セクハラ・パワハラには、「昔は~だった」「俺の時代は…」という弁解は通じません。

職場も一種の社会です。自分本位の過ごし方ではなく、時代や職場の価値観に敏感になって日々を過ごすのが大切です。

 

被害者になってしまった時の対処法

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自分の状況を確認する

セクハラ・パワハラの被害者は、基本的人権が否定され、精神的・身体的な苦痛にさらされます。

そのような強いストレスによってうつ病などの精神疾患になってしまうことはよくあることですし、想像に難くありません。ただ、そのような被害にさらされている人の中には、そのような自分の置かれている状況を無理やり正当化しようと頑張ってしまう人もいます。

我慢することも被害者の強さといえるかもしれませんが、我慢を続けることは精神的・身体的に良いことではありませんし、何よりも職場環境の改善という問題の根本的な解決にはつながりません。

少しでもセクハラ・パワハラと感じた場合には、我慢をせず、職場における自分の置かれた状況を冷静に確認しましょう。

 

証拠の収集

セクハラ・パワハラは、職場という閉じられた環境で行われる行為であることから、目撃者や関与者が特定しやすい反面、事実を知っている人が特定の人に不利な証言をすることをためらうことが多く、証拠の収集が困難という面があります。

もっとも、セクハラ・パワハラに対し、会社や司法に対し適切な是正や救済を求める場合において証拠は必要不可欠です。

証拠収集は以下の観点で行うことが考えられます。

  1. 被害者自身→録音、日記、写真等による被害記録
  2. 相談者→家族、恋人、同僚など、いざというときに証言をしてくれる者
  3. 他の被害者→加害者は、同じような被害にあっている職場の人
  4. 医者などの専門家→診断書、問診票、証言

 

解決方法

社内外における相談窓口への相談

近年、セクハラ・パワハラ問題への関心の高まりから、社内に相談窓口を設ける会社が増えています。

個人情報がしっかりと守られているか、相談したこと自体が自分の社内における立場に悪影響を与えることのないような体制が取られているかなどチェックすべき点はありますが、職場環境を更正するうえでは有効な解決方法といえるでしょう。

また、その他に、社外の相談窓口として、労働局・労働基準監督署には総合労働相談コーナーが設置されており、相談員から相談に乗ってくれます。また、弁護士会などの外部団体においても職場におけるトラブルについて相談窓口を設けていることもあります。

 

法的措置

セクハラ・パワハラによって、刑事責任、懲戒処分、民事責任に問われることがありえます。

被害者としては、求める解決や被害の程度に照らして、①裁判外での紛争解決(示談交渉、ADRの利用)、②労働審判、③裁判、④労災申請、⑤刑事告発などの利用を検討することが考えられます。

 

キーワードは意思の相違

セクハラ・パワハラについて、再確認できたでしょうか。日々の言動を振り返ってみて、ドキッとする人はいないでしょうか。セクハラ・パワハラのトラブルにおけるキーワードは「意識の相違」です。

自分の職場全体の不快感は、個人間のトラブルだけでなく、業務効率の低下にもつながります。広い視野を持って、職場の人々、全員が快適に仕事ができる職場環境を目指しましょう。

 

【執筆者】
楠瀬 健太(くすのせ けんた)

中央大学法学部を卒業後、一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。神奈川県下最大規模の弁護士数を誇る横浜綜合法律事務所に所属。労働問題を始めとする民事全般 から刑事事件まで幅広く取り扱っております。難しく思える法律をできる限り分かりやすくお伝えいたします。

▶所属している法律事務所:
横浜綜合法律事務所