基本の書き方を弁護士が解説!業務委託契約書、基本の「き」

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「契約書」は、世の中の様々な場面で作成されます。

言うまでもなく、契約書は契約内容を表し、契約の当事者がその内容を承諾し、合意したことを示します。

日本の裁判所では、契約者の署名、押印がある契約書があれば、ほぼ間違い無くその契約書に書かれている契約内容で合意があったものと扱います。

とんでもない内容の契約書によく確認もせずにハンコを押してしまえば、想定外のトラブルに巻き込まれるだけではなく、裁判においても自分の望む結論が得られないことになりかねないのです。

契約書には、細かい字でたくさんの内容が書かれていることが多く、一見するとしっかりと内容を把握し、理解することが難しく思えます。

しかし、実はほとんどの契約書はおおよその構成が決まっています。

この記事では、みなさんが業務でよく使うであろう「業務委託契約書」を例にとって、契約書を読むためのポイントを押さえていきます。

 

契約書はトラブル時の保険

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口約束でも契約は成立します。では、なぜ契約書を作るのでしょうか。

トラブルが起きていない時に契約書を読み返す人はそう多くないはずです。自分でした約束の内容はしっかり覚えているでしょうし、日々の業務をしっかりとしていれば、契約の細かい条項を気にする必要はないでしょう。

しかし、契約で定めた業務について、契約相手とトラブルが生じたときはどうでしょうか。その場合は、お互いに契約書の内容をチェックし、契約の内容はどうなっていたかチェックするでしょう。

その結果、自分の思っている通りの内容が契約書に書いてあれば、契約書を示して、相手に要求することができるでしょうし、契約書の内容からして自分が誤っている場合には、契約の内容とは異なることを前提に相手と話す必要があるでしょう。

つまり、契約書とは、トラブルが無い時にはその重要性を実感しませんが、トラブルが生じた時には、トラブルを収束させるために大きな力を発揮する「保険」のようなものなのです。

したがって、自分が現在作成している、またはこれから作成する契約書が、トラブルが生じた際にしっかりと効力を発揮してくれる内容となっているかどうかを読み解くことは円滑な業務、トラブルに強い業務を展開する上で非常に重要なのです。

 

業務委託契約書の基本構成

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ここでは業務委託契約書を題材に契約書の基本構成を見ていきます。

事業で作られる契約書は、「売買契約書」「請負契約書」「賃貸借契約書」など多種多様な形態がありますが、「業務委託契約書」はフリーランスの方たちを含め、事業において登場頻度の高い契約書です。

業務委託とは、簡単に言えば、ある一定の行為を行うことを約束し、それを行う対価として、クライアントからお金をもらうという契約です。

 

タイトル

契約書のほとんどには、文書の冒頭に契約書の「タイトル」が付けられています。

タイトルの多くは、一目でその契約書がどのような内容について定められているのか分かりやすくするためにつけられています。

たとえば、「売買契約書」であれば、それは何かの売買について定めた契約書でしょうし、「賃貸借契約書」であれば、何かを貸し借りすることについて定めた契約書でしょう。

したがって、タイトルは、短く簡潔に契約書の内容が分かる文言で付けられることになります。

ただ、業務委託契約と一言で言っても、その内容は判然としません。「●●委託契約書」などと業務の内容を一言で表せる場合には、それをタイトルに付ければ解決しますが、単に「業務委託契約書」とだけ書かれている契約書も多くあります。

その場合には、契約のだいたいの内容を理解するだけでも、前文や個々の条文を読んでいかなければならないことになります。

 

前文

タイトルの次には、以下のような「前文」が書かれるのが通常です。

●●(以下、「甲」という)と△△(以下、「乙」という)は、本日、ホームページの管理運営業務に関し、以下のとおり合意し、ホームページ管理運営業務委託契約書(以下、「本契約」)を締結する。

前文の役割は、主に契約の当事者が誰なのか明示することにあります。

また、形式的な役割として、契約書内でよく出てくる当事者名や契約名に略語(甲、乙など)を付け、その後の契約書の文章を簡潔にさせる役割もあります。

小説でいうならば、冒頭にある登場人物紹介ページといったところでしょうか。

 

条文

前文の次は、ついに契約書の肝の部分である「条文」です。条文としてどのような内容が書かれるかによって契約の内容が決定します。条文の定めに決まった順番は無く、またどのような内容を定めることもできます。

したがって、個々の契約書によって条文は異なりますので、一概にどのような条文があり、どのように書かれるかということを示すことはできません。

しかしながら、契約書で様々定められる条文の中で最も重要なものは、当事者の権利と義務を定める条文です。

先ほど確認したように業務委託契約とは、ある一定の行為を行うことを約束し、それを行う対価として、クライアントからお金をもらうという契約です。

したがって、必ず確認しなくてはならないのは、自分が相手のために何をする必要があり(義務)、また、何を対価としてもらえるか(権利)ということです。

そして、一般的に条文は当事者が重要と考える順にしたがって規定されるため、権利と義務を定める条文は、第1条や第2条に定められていることが多いです。

細かい規定にも重要なことがかかれていることはありますが、まずは、自分が作成している、またはこれから作成する契約書で自分の権利と義務がどのように定められているかチェックすることが大切です。

この点が曖昧だと、契約によって得られると思っていたこと(権利)が果たされなかった時に相手に対し契約書に従ってその履行を求めることが叶わない…などということが起きてしまう可能性があります。

通常、権利と義務を定める条文は以下のような形式で書かれます。

第○条(当事者の義務)

1 甲は乙に対し、本契約に基づき、次の各号に定める義務を負う。

 ⑴・・・

 ⑵・・・

2 乙は甲に対し、本契約に基づき、次の各号に定める義務を負う。

 ⑴・・・

 ⑵・・・

この場合、甲の立場に立つと、第○条第1項が自分の義務を定めた規定、第○条第2項が自分の権利を定めた規定ということになります。

 

後文・作成日付・署名

後文では、正本の数やそれを双方が保有することなどが確認されます。

作成日付については、基本的に作成日付=契約日付とされますが、契約自体は契約書を作成しなくても成立するので、口約束を後々契約書に起こす場合には、作成日付と契約日付がずれる場合があります。

また、法律上、契約当事者の署名又は契約当事者の印鑑による押印があれば、その契約書は署名押印者の意思を反映するものと推定されます。

以上の合意を証するため本契約書の正本2通を作成し、甲乙署名の上、各一通を保有する。

 

平成○年○月○日

 

甲:住所

  氏名

 

乙:住所

  氏名

 

契約書は紛争の予防と解決に不可欠

契約書を読んだり、まして自分で作成することは難しいと感じ、ついつい慣れた日々の業務では、作成を怠ってしまう人も多いかもしれませんが、契約書が自分だけでなく、取引相手との大事な取引を守るものであるとの認識を持ち、契約の特に重要な事項だけでも書面に残しておく意識を持つことで、ワンランク上の事業者になれるのではないでしょうか。

 

【執筆者】
楠瀬 健太(くすのせ けんた)

中央大学法学部を卒業後、一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。神奈川県下最大規模の弁護士数を誇る横浜綜合法律事務所に所属。労働問題を始めとする民事全般 から刑事事件まで幅広く取り扱っております。難しく思える法律をできる限り分かりやすくお伝えいたします。

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横浜綜合法律事務所