フリーランスとして、ホームページからシステム開発まで幅広く案件を請けている、すぎさかたかしさん。使いやすく、安定したシステムの提供に定評があり、国内外の大規模なプロジェクトに参加した実績もあります。
一方で、起業の原点となったのは、オンライン英会話スクールの運営、という異色の経歴の持ち主。
ビジネスの好機を見据え、常に自分で考え行動してきた、すぎさかさんの歩みや、仕事に対する考え方に迫りました。
会社都合で働くことに理不尽さを感じて起業
―多彩な経歴をお持ちと聞きました。
もともとデザインが好きだったので、最初に就職したのは、映像の美術制作会社でした。映画やミュージックビデオの撮影セットや小道具を作るような仕事です。5年間ほど働いて、現場でみっちり仕事を叩きこまれました。
その後、会社がオーストラリアに拠点を持つという話が挙がり、転勤を希望しました。オーストラリアは日本と季節が逆なので、半年先に放映するCM撮影のニーズがあったんです。また当時にフォックス・スタジオもシドニーに進出して、ハリウッド映画の撮影も盛んだったということもあり、刺激のある環境でした。
―英語はお得意だったんですか?
はい。中学、高校と5年間、アメリカに留学していたので。
―中学から? それは、すごいですね。では、オーストラリアでのお仕事は英語のスキルを活かせるものだったんですね。
はい。でも4年ほど経ったとき、会社から帰国するよう指示が出て日本へ戻りました。「日本に帰ってからも英語を使った仕事をしたい」と希望したのですが、なかなかそのようなポジションの仕事は望めないことが分かり交渉した結果、退社を決めました。32歳ぐらいのころです。
―会社を辞めて、どうされたんですか。
語学力を生かせる仕事、ということで、オンライン英会話スクールを手がける会社に就職し、フィリピンの現地責任者になりました。前任者はいたのですが、すぐに辞めてしまったので、オーストラリアで4年間仕事をしていた僕なら、現地での生活にも馴染みやすいだろうと…。
ただ、この会社に就職するときから、上司には「いつか起業したいです」と話していました。それで2年ほど勤務したあと、独立して自分でオンライン英会話スクールを始めました。
―起業したいと思われたのはどうしてですか?
美術制作会社に勤務していた際に仕事にも慣れて、もっとやりたいこともあったのに帰国を促されたことが大きかったですね。
サラリーマンだと当然なのですが「会社の指示には絶対に従わなければいけない」というのを理不尽に感じました。どの会社で働いても、一従業員という立場は変わらないでしょう。それなら自分で主導権を取って仕事ができるよう、起業するのが良いと思ったんです。
―確かにそうですよね。オンライン英会話スクールでの起業は、どのように始められたのでしょうか。
起業した当時は、今ほど、オンライン英会話が普及していた時代ではありませんでした。ただ、色々な人がこれから手がけようとしていた時期だったので、生徒を確保するためには一刻も早く始めなければいけないと思いました。
幸い、前職で現地の責任者をさせてもらっていて、運営や求人のノウハウがあったので、すぐにスクールを立ち上げることができました。最初は先生が5人ぐらいからのスタートでした。
―こういうスクールを作りたい、という理想や夢はありましたか?
毎日30分ずつでも話していれば英語はしゃべれるようになる、というオンライン英会話が多いのですが、僕の経験上それは難しいと思っています。文法や単語をちゃんと勉強しないで、だだ何となくしゃべっていても、本当に話せるようにはならないから…。
だからこそ、本当に英語力の身につく、意味のあるスクールをやりたいと思いました。そのため、先生にはちゃんと研修し、テキストも自分で整えて。手間暇はかかりますが、自分のポリシーは崩さないようにしています。
必要に迫られて身に付けたITスキルで新しい仕事を開拓
―一方で、今はweb制作やシステム開発のお仕事を受注されているそうですね。そのようなスキルはどこで身に付けられたのでしょうか。
オンライン英会話スクールを始めるために、まずはホームページが必要だったのですが、web制作会社でホームページを作ってもらおうとしたら、想定より高い金額でした。
そこで、知人の知人を頼って、ホームページを作ってくれる人を探したのですが、なかなか自分が思うような内容で仕上げてくれる人はいませんでした。
早くスクールを始めないと、他社にお客さんを持っていかれると思ったので、仕方なく自分でホームページを作り始めました。
―パソコンのスキルはお持ちだったんでしょうか。
美術制作会社に勤めていたとき、IllustlatorやPhotoshopを使っていたので、デザイン系のソフトを動かすスキルはありました。ホームページを作るときも基本は一緒なので、やってみたら自分で十分にできたんです。
―では、システムエンジニアのスキルはどうやって身に付けられたのですか?
オンライン英会話スクールを始めたら、ありがたいことに生徒さんがどんどん増えていきました。
レッスンの予約や先生たちのシフト、授業料の入金管理など、最初はすべてExcelでやっていたのですが、徐々に手作業では大変になってきました。例えば急な予約変更があったら、すべて手作業でExcelをいじって対応しているような状況でした。
「これは何とかしなければ効率が悪い」と思い、入出金や予約のシステムを作ってくれる人を探してみました。その際も、人づてにお願いをしたのですが、なかなか思い通りのシステムを作れる人がいなくて。仕方なく、ホームページの時と同様、自分で作り始めました。
ホームページ制作もシステム開発も、必要に迫られていたので必死でしたが、結果的に新しいスキルを身に付けることになって良かったのだと思います。
―その後、web制作やシステム開発で、お仕事を受注するようになったのはどうしてですか?
オンライン英会話スクールは、システムを整えた結果、スムーズに運営できるようになりました。英会話のレッスンは午後から夜にかけて忙しく、運営が落ち着いてきたら午前中は時間的な余裕ができて。
じゃあ何か別のことができるかな、というときに、クラウドソーシングで仕事を請けてみようかと。
その頃、誰かに言われたんです。「新しいことを始めるなら、何か違うジャンルの仕事をした方がいい」と。最初は空いた時間を使って、英会話のテキストを作ろうと思っていたんですよ。でも将来、世の中の流れが変わったら、英会話のビジネスが立ち行かなくなる可能性もあるわけで。その時につぶしが利くように別の仕事を持っておくのは大事だと思いました。
そんな時にたまたま母親から「こんなのあるわよ」と、教えられたのがクラウドワークスだったんです。
―お母さまがきっかけだったんですね。
はい。たまたま電話で「クラウドワークス、知ってる? ホームページとか作れるなら、仕事がいろいろ見つかるらしいわよ」と教えてくれて(笑)。僕はそれまで、全くクラウドソーシングについて知らなかったのですが、母自身も起業しているので、そういうビジネス感覚はあったんでしょうね。
その後、早速、クラウドワークスのホームページを見てみたら、いろいろ仕事がありそうでびっくりしました。それで、登録した日に即応募。すると、その日のうちに仕事を成約できて。そのスピード感にまずは驚きましたね。
―初めての仕事はどのようなものでしたか?
美容院のロゴを作る仕事でした。ほかにも応募していた人がいたので、どうして登録したばかりの僕を選んでくれたのか、不思議だったんですが、プロフィールにオンライン英会話スクールで作ってきたホームページや、予約システムなどの実績を載せていたことが大きかったんだと思います。
―では、その後も引き続き仕事の受注を?
はい。このあとも応募をすれば、それなりに受注できた、というのがキーポイントでした。最初やってみて、仕事が取れなかったら多分、クラウドソーシングでの仕事はあきらめていたと思うんですよ。始めたばかりのころは、かなりの数を応募して、その中から1つでも2つでも仕事が決まればいいぐらいの感覚でした。
でも、そのうち段々と、継続してお声がけしてくれるクライアントさんや紹介による依頼が増えてきて。ありがたいことに仕事が途切れるようなことは、滅多にありませんね。
自分で試行錯誤し、苦労したからこその強み
―今、主に請けている仕事はどのようなものですか?
サーバーの選定や設定、ホームページ制作、システムやデータベースの構築などです。
―大手の企業さんからの依頼もあるそうですね。
システム関連の仕事でしたが、チャンスをいただけたので、期待に応えられるようスキルをさらに磨きました。もともと独学で切り開いてきた自分にとって、必要とされている主流の技術を直に学べる機会は貴重で、スキルの幅が広がったと思います。
―ご自身の強みはどのようなところだと考えていますか?
オンライン英会話スクールの立ち上げ時に、失敗もしながら色々なことを自分一人で試行錯誤してきた経験が活きていると思います。
例えば、クライアントさんの要望通りに作ればそれでいいのではなく、将来的にトラブルが出て来そうな場合は事前にお伝えして、より良い形で長く運用できるシステムを提案しています。
これは自分自身が最初、スクールのシステムを立ち上げようとしたとき、サーバーの会社の人と話をしても、自分が本当に知りたい情報をなかなか言ってくれずに困った経験があるからです。
やはり、それなりの投資をするわけですから、長く使えるサーバーやシステムを誰だって欲しいわけですよね。あまりwebやシステムについて詳しくないクライアントさんもいるので、僕の経験からこうした方がいいと思うことは最初に提案し、説明しておくようにしています。
あとは使っていくうちに、クライアントさんがシステムの改造を希望することも見越して、将来的に発展していける仕組みづくりを心がけていますね。
―現在、一日のお仕事の流れとしてはどのような感じですか?
午前中から午後がweb制作やシステム開発、夕方から夜にかけてはオンライン英会話スクールの仕事、という働き方は今も変わりません。昔はクラウドソーシングで請けた案件を朝までやっていたことがありますが、次の日の仕事に響いてしまうので止めました。
―生産性を重視、というところでしょうか。
そうですね、できる仕事以上は請けないようにしています。サーバーのトラブルなど緊急事態は対応しますが、それ以外の依頼については、夜間や早朝のリクエストはお断りしています。そういうスタンスでいるので、僕に頼まなくなった会社もいますが、それはそれでクライアントさんの選別ができたと思っています。
―今もオンライン英会話スクールは継続を?
システム開発やweb制作の仕事に絞ろうか、考えたときもありますが、オンライン英会話スクールの方も先生や生徒さんがいて責任があるので。
オンライン英会話はニーズがたくさんあって、新規入会者の体験レッスンをする余裕もないほど予約がいっぱいです。先生を増やせばもっと生徒も取れるのですが、僕の求めるレベルに見合う先生はなかなかいないので、新規採用が難しくて。でも、お金儲けのために規模をどんどん大きくしていくと、僕が理想とするスクール運営が難しくなるので、ぼちぼちやっていきたいと思っています。
―今後、挑戦したいことはありますか?
新しいこととしては、サイバーセキュリティ対策の分野に興味があります。自分自身でもある程度の知識やスキルがありますが、もっと勉強して、高いレベルでサービスを提供できるようになりたいと思っています。
―これからフリーランスになろうとしている方にアドバイスなどがあればお願いします。
会社に勤めながら複業を始めてみて、もし夜遅くまで複業に熱中してしまう人だったら、フリーランスに転向した方がいいと思います。
でも「会社からは何時までに帰宅したい」「土日休みは絶対」という感覚があるのであれば、フリーランスは向いていないかもしれません。
やったらやった分だけ稼げて、それがまたやる気や頑張りにつながるような人であれば、うまく仕事をコントロールできるはず。休みも自分で調整していけるようになると思うので、そういう人にはぜひ挑戦してみてほしいですね。
取材・文:吉岡名保恵
すぎさか たかし
美術制作会社勤務&オーストラリア駐在、オンライン英会話スクールの管理者を経て独立。
現在は自身が手がけるオンライン英会話スクールの運営と、クラウドソーシングで受注するweb制作やシステム・データベースの構築、さらにLINEスタンプの制作も手がけるなど多彩に活躍中。
ワードプレスやホームページ/MySQLでのシステム構築が得意。