出産祝いのビットコインのせいで0歳児が扶養家族から外れる?! その真偽を現役税理士に聞いてみた

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先日、ネット上で「出産祝いをビットコインでもらった→その収益が年ベースで130万円を超えてしまう→生後一週間の0歳児が社会保険の扶養から外れる事に!?」というニュースが話題になりました。

事の経緯としては、ある方が出産祝いにビットコインをもらい、それを将来の贈与税を回避する目的で、生まれたての赤ちゃんの名義の口座に直接入れたとのこと。すると、その収益が年ベースで130万円を超えてしまい、生後1週間の赤ちゃんが社会保険の扶養から外れてしまう可能性が。

そこで、実際に130万円の収益が年ベースで確定した場合にどうなるのかを、現役税理士に聞いてみたところ

  • 今回のケースで、赤ちゃんが社会保険の扶養から外れてしまうかどうかは保険組合の判断による
  • しかし、仮想通貨による利益は給与収入では無いため、38万円を超えた場合、自分で確定申告をする必要がある

本文では、より具体的に「扶養家族とは何か」「扶養家族の適用条件」「今回のケースではどうなのか」を解説してもらいました。

 

そもそも子どもが扶養家族から外れる条件は?

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そもそも、「扶養とは」そして「扶養家族とは」どういった意味でしょうか。

 

まず、扶養とは「自分の力だけでは生活できない者に対する生活上の援助」と辞書に書いてあります。そして、扶養家族とは「生活の面倒をみなければならない家族」のことを指します。

こういった誰かに養ってもらわないと生きていけない者、つまり扶養家族を守るため、税金や社会保険の制度上、扶養家族がいる者は扶養家族がいない者に比べ、負担が軽減される仕組みになっています。

 

逆に言えば、扶養から外れるということは、自分で生きていけるほどの所得があることを意味します。

扶養家族がいる者は、扶養家族がいるからこそ、税金や社会保険の負担が軽減されています。そのため、その扶養家族がいなくなれば、元々扶養家族がいない者と同様に、通常通りの負担となります。

アルバイトをしている学生や専業主婦が扶養から外れないように気を付ける理由は、扶養家族がいる者、つまり親や配偶者の負担が軽い状態を維持するためなのです。

 

少し難しい話になりますが、税金と社会保険では「扶養」の定義が異なります。

例えば、収入面では、税金が年間給与収入103万円以内を扶養家族と考えるのに対し、社会保険は130万円となります。

このように、税金と社会保険では、扶養家族に該当するかどうかの基準や条件が異なりますので、整理していきましょう。

 

①税金の観点

まず、税金の話です。子どもがいる方が会社から源泉徴収票を受け取った際に、源泉徴収票に子どもの名前が記載されていた記憶はありますでしょうか。下記青枠の箇所です。

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税金計算上、子どもがこの「控除対象扶養親族」に該当することで一定額が給与所得から控除され、その分だけ所得税や住民税が安くなります。

 

具体的には、「控除対象扶養親族」とは、扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人をいいます。そして、その中でも、その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人のことを、「特定扶養親族」といいます。これらに該当すると、扶養している親の税金計算上、それぞれ下記の金額が控除されます。

  • 控除対象扶養親族:所得税38万円、住民税33万円
  • 特定扶養親族  :所得税63万円、住民税45万円

このように、教育費がかかる高校生や大学生を持つ親は、税金負担が軽減されています。なお、19歳以上23歳未満の子どもの控除額が大きい理由は、大学進学でその分教育費の負担がより一層重いため、控除額が増額されています。

 

こういった控除を、税法上「扶養控除」といいます。この制度は、もちろん、子どもが扶養親族であることが条件ですので、子どもが扶養から外れるような所得がある場合は、この「扶養控除」を適用することはできません。

 

そして、その所得とは、収入の種類に応じて下記の金額を超えた場合は、子どもは扶養から外れてしまい、親は「扶養控除」を活用できなくなるため、注意しましょう。

  • アルバイトなどの給与収入  : 103万円
  • 仮想通貨などの売却利益   :  38万円

 

②社会保険の観点

次に、社会保険の話です。社会保険には、「会社勤めの方やその家族が加入する①健康保険」「自営業者などが加入する②国民健康保険」がありますが、国民健康保険には、扶養という考えがないため、ここでは健康保険について説明したいと思います。

 

学生の頃、アルバイトをしていたときに、「年間収入が103万円は超えてしまっても130万円は絶対に超えてはならない」と聞いたことはないでしょうか。これは130万円を超えることで、健康保険の制度上、自分の所得だけで生きていけるとみなされ、親の扶養から外れてしまうためです。

 

年間収入が130万円以内ならば、子どもは保険料負担なく親の健康保険に加入できますが、130万円を超えてしまった場合、つまり、子どもが扶養から外れた場合は、子どもが自分で保険料を支払わなければなりません。

 

ただし、1点覚えておいてほしいことがあります。それは、社会保険上の扶養は今後1年間の収入見込みで考えるということです。つまり、仮想通貨の売却収入が130万円を超えてしまっても「一過性の過去の収入」と保険組合が認めれば、今後1年間の収入は無いため「親の扶養に入ったままで良い」とみなされるかもしれません。

 

正直なところ、各保険組合の判断に寄る部分が大きいため、心配な方は自分が所属する保険組合に事前に問い合わせをしてみましょう。

 

③家族手当の観点

勤め先が上場会社や上場会社に準ずる大きい会社の場合、または公務員の場合、福利厚生の一環で、家族手当(扶養手当ともいいます)といった諸手当が支給されている場合があります。

 

通常の給与とは別に手当として支給され、扶養家族がいる方の生活を支える意味合いがあります。支給額や支給対象である配偶者や子どもの条件が就業規則で規定されているため、一度自分の勤め先の就業規則を確認してみましょう。

 

なお、一概には言えませんが、税金の基準に倣って、配偶者や子どもの年間給与収入が103万円以内の場合は支給している会社が多いようです。

 

扶養から外れると何が起こるのか

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①から③までのケースは、扶養家族がいた場合に得する内容でした。これを簡潔にまとめてみますと下記のようになります。

  1. 税金:年間給与収入が103万円を超えると、扶養控除が適用不可となる。
  2. 健康保険:年間見込収入が130万円を超えると、健康保険を自分で支払うこととなる。
  3. 手当:一般的に年間給与収入が103万円を超えると、家族手当が受給不可となる。

そして、最後に仮想通貨を売却して扶養から外れるほどの所得が子どもに発生した場合は、どうなるでしょうか?

 

子どもに基礎控除と呼ばれる38万円を上回る所得がある場合は、子ども自身が確定申告をしなければなりません。

 

まず、38万円と聞いて、103万円ではないかと疑問に思った方もたくさんいると思いますが、先述した通り103万円の場合は給与収入の場合です。

給与収入の場合は、基礎控除と呼ばれる38万円に、さらに、給与所得控除と呼ばれる65万円を控除することができます。

つまり「38万円+65万円=103万円」を上回らない限り、確定申告をする必要はありません(厳密にいえば、103万円を超えても、給与であれば給与支払先の会社が源泉徴収をして代わりに納税してくれるため、確定申告自体をする必要はありません)。

 

しかし、仮想通貨を売却した際の利益は、給与ではありませんので、38万円を超えた場合は、自分で確定申告をして納税する必要があります。

 

もちろん、子どもが未成年であろうが、子どもが仮想通貨を売却して利益を出したならば、子どもが確定申告をしなければなりません。未成年だからといって親が代わりに確定申告をすることはできないので、気を付けましょう。

 

扶養家族の適用条件を整理しましょう

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子どもが扶養家族から外れる場合は、一定の所得が子どもに帰属する場合です。そのため、いくらまでならば扶養家族の範囲内か、いくらから扶養親族を外れてしまうのかを事前に整理しておきましょう。

 

その範囲内で仮想通貨を売却すれば、子どもが扶養親族から外れることはないので、一度に全てを売却するのではなく、複数年に分けて売却することも検討してみてはいかがでしょうか。

 

【執筆者】
長野 拓矢(ながの たくや)

2011年国内大手税理士法人に入社。前職では、コンサルティング事業部に在籍し、主に、企業オーナーの事業承継対策や地主の相続対策といった提案型の業務に従事。現状を詳細に分析した上で、クライアントのニーズを汲み取り、クライアント1人1人に寄り添った提案を行うことを心掛けている。法人の顧問業務や個人の相続税申告業務においても、他士業と連携し、スピーディーな業務提供を行っている。

▶所属している税理士法人:
税理士法人 アイユーコンサルティング