【弁護士解説】下請法とは?適用される資本金の金額や違法した場合

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取引相手の方が優位だ…

フリーランサーとして働いていると、日々の業務の中で、自分よりも規模が大きい会社を相手にすることが多く、どうしても相手のペースで契約内容などが決められていき、それに(立場的にも、経済的にも)抗えないという場面に出くわすことがあるかと思います。

ただ、契約や業務は、本来、平等な立場で行われるべきものです。そこで、そんなフリーランサーの強い味方となる法律がしっかりと整備されているのです。それが、通称「下請法」(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)です。

本稿では、「下請法」の目的や対象取引、禁止事項、そして具体例の解説を行なっていきます。

 

下請法の目的

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世の中には、様々な委託業務がありますが「契約の当事者は常に対等」というわけではありません。

契約上、規模の大きい委託する側の親事業者(※)が委託業務を受注する下請事業者(※)よりも優位な立場に立ち、委託料の金額、支払方法等の様々な点において下請事業者は譲歩せざるを得ない状況に陥る恐れがあります。

下請法は、委託業務において下請事業者が不当な扱いを受けないようにし、取引の公正を守る目的で制定されています。

※下請法の適用対象となる取引を委託する事業者を「親事業者」、委託を受ける事業者を「下請事業者」と言います。

 

下請法はどのような取引に適用されるの?

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下請法は、下請法が適用される取引を「取引の内容(種類)」と「取引当事者の資本金額」という2つの点から定めています。

また、大前提として下請法の規制を受ける取引は、「委託取引」であることが必要であり、「委託取引」とは、「事業者が、他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)もしくは修理、情報成果物の作成又は役務の提供を依頼すること」と公正取引委員会の運用基準で定められています。

簡単な言葉で言えば、単なる売買(仕様等が元から決まっている商品を買う)は含まれず、買手が規格・デザイン・品質等を売手に対して指定して注文するような取引を言うということです。

 

対象となる取引の内容(種類)は?

まず、下請法が適用される取引の内容(種類)について解説していきます。

①製造委託

物品の販売・製造を行う業者(親事業者)が、物品の仕様を指定した上で、物品の製造や加工(組立て、成形、塗装等)を他の業者(下請事業者)に依頼することを言います。物品とは、動産(ネジ、衣類、商品を作るための原材料等)を言い、建物などの不動産は入りません。

②修理委託

物品の修理を請け負う業者(親事業者)が、修理の全部又は一部を他の業者(下請事業者)に依頼することを言います。この類型についても物品は動産に限られるため、建物の修理など不動産の修理は対象外です。

③情報成果物作成委託

プログラム、映像コンテンツ(映画、放送番組、ラジオ等)、各種デザイン(設計図、商品のデザイン、広告等)などの情報成果物の提供や作成を営む事業者(親事業者)が、その作成を他の事業者(下請事業者)に依頼することを言います。

④役務提供委託

各種役務(サービス業)を営む事業者(親事業者)が、自社の請け負った役務を他の会社(下請事業者)に委託することをいいます。

ただし、建設工事については建設業法によって下請契約について規制が定められているため、下請法の規制対象ではありません。下請法の規制対象になる役務提供委託は、運送業、メンテナンス業などになります。

 

取引当事者の資本金額

次に、下請法が適用される取引当事者の資本金額について解説していきます。

そもそも、下請法の目的は、力の強い事業者と力の弱い事業者との契約において生じる不均衡を防止することにあります。

そこで、下請法は、その規制対象を力の不均衡が生じ得る場合の基準を契約当事者の間の資本金額の差に求め、一律に規制対象を定めています。

基本的な基準は?

委託取引の発注者の資本金額が1,000万円超であるのに対し、受注者の資本金額が1,000万円以下である場合、発注者は親事業者、受注者は下請事業者として、この取引が上記①~④の取引の種類にあたれば下請法の適用を受けます。

なお、多くのフリーランサーは個人事業主であり、資本金を持たないと思いますが、個人事業主は、資本金の額うんぬんは関係なく下請事業者となります。

3億円基準

①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託のうちプログラム作成を行う事業の場合、④役務提供委託のうち運送・倉庫における保管・情報処理を行う事業の場合には、「3億円基準」という別の基準によっても親事業者・下請事業者が定められます。

委託取引の発注者の資本金額が3億円超の場合に、受注者の資本金額が3億円以下である場合には、発注者が親事業者、受注者が下請事業者となります。また、発注者の資本金額は1,000万円超3億円以下の場合に、受注者の資本金額が1,000万円以下である場合も、発注者は発注者、受注者は下請事業者となります。

5,000万円基準

③情報成果物作成委託のうちプログラム作成を行う事業以外の場合、④役務提供委託のうち運送・倉庫における保管・情報処理を行う事業以外の場合には、「5,000万円基準」というさらに別の基準によっても親事業者・下請事業者が定められます。

委託取引の発注者の資本金額が5,000万円超の場合に、受注者の資本金額が5,000万円以下である場合には、発注者が親事業者、受注者が下請事業者となります。また、発注者の資本金額は1,000万円超5,000万円以下の場合に受注者の資本金額が1,000万円以下である場合も、発注者は発注者、受注者は下請事業者となります。

 

親事業者の義務は?

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下請法では、親事業者の義務として、全部で4つの義務が定められています。

書面の交付義務

親事業者は、発注の際に下請事業者に対し、発注内容等を記載した書面を交付する義務があります。交付する書面には、発注内容、下請代金の額、支払期日などを定めなければなりません。

業務を受ける時にいちいち書面を作成するのは面倒くさいと感じる人もいるかと思いますし、いざトラブルになるのは社会で行われる取引のうち、ほんの一握りかもしれません。

しかしながら、力の差がある事業者間でいざトラブルが生じ、言った、言わないの争いになった時によりダメージを受けるのは力の弱い下請事業者です。そのようなリスクから下請事業者を守るために、下請法は親事業者に対して、書面の交付義務を定めているのです。

 

取引記録書類保存義務

「書面の交付義務」は、発注の際の問題ですが、親事業者は、業務を発注した後にもその取引の内容を書面に記録し、その書類を2年間保存する義務があります。その書面には、業務の経過はもとより、業務内容や下請金額を変更したことも記録しなければならず、下請契約の不当な変更等を防止する意味をもっています。

 

下請代金の支払期日を定める義務

親事業者は、下請事業者に発注した商品(サービス業の場合は役務の提供)を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に支払期日を定めなくてはなりません。

また、継続的に取引を行う関係である場合には、支払いのスパンを月末締めとし、ひと月分をまとめて支払ってもらうこと(締切支払制度)が多いかと思いますが、その場合も商品等を受け取ったそれぞれの日から起算して60日以内に支払期日を設定しなければなりません。

例えば「月末締め・翌々月末払い」という形式をとっている場合は、当月中に商品等を受け取った日から支払日までが60日以上経過してしまうため、下請法違反となります。締切支払制度をとる場合は、「月末締め・翌月末払い」とする必要があります。

 

遅延利息を支払う義務

親事業者が支払い期日までに下請代金を支払わなかった場合、商品を受け取った日やサービスの提供を受けた日から起算して60日を経過した日から実際に下請代金が支払われた日までの期間について、下請代金に年利14.6%を乗じた金額を遅延利息として支払う義務が生じます。

 

親事業者の禁止される行為は?

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下請法は、親事業者が下請事業者との力の差を利用して、不当に自己に有利な取引を行うことを防止しようと、親事業者が下請事業者との間の取引でしてはならないことを定めています。

ここで定められる禁止事項は絶対的ものですので、例え親事業者と下請事業者との間で合意があったとしても禁止事項を破ることはできません。以下、具体的な禁止事項になります。

  1. 買いたたきの禁止
  2. 受領拒否の禁止
  3. 返品の禁止
  4. 不当な給付内容の変更、やり直しの禁止
  5. 下請代金の支払い遅延の禁止
  6. 下請代金の減額の禁止
  7. 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
  8. 割引困難な手形の交付の禁止
  9. 購入・利用強制の禁止
  10. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
  11. 報復措置の禁止

以上の禁止事項を取引の流れにそって具体例も交えて確認していこうと思います。

注文時

取引のスタートは、注文を受け、価格や数量について交渉を行い決定するところから始まります。

下請事業者が「高い代金にしたい」と思う一方、親事業者としては「より安く注文したい」と思うのが通常であり、お互い交渉で自分に有利な条件をできる限り引き出そうとします。

そして、通常の健全な交渉であれば、双方が最初に提示した金額からある程度双方歩みよって最終的な金額が決められると思います。

ただ、この場合において、親事業者が取引上有利な立場にあることを利用して、通常の市場価格から著しく低い下請代金を定めることが考えられます。

下請法は、通常支払われる対価と比べて著しく低い下請代金を定めることを禁止しています(『1.買いたたきの禁止』

納品時

交渉の結果、合意した契約にしたがって、下請事業者が製品を製造し、又はサービスを提供した段階においても禁止事項が定められています。

「在庫が残っていること」を理由に親事業者が製品の受領を拒むという例が実際にあります。

当然のことながら下請事業者に責任はなく、不当な扱いですので、下請法はそのような親事業者による『2.受領拒否の禁止」を定めています。

下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注した物品等を受領後に返品することが禁止されています(不良品などがあった場合には受領後6か月に限り返品が認められています。)。これが『3.返品の禁止』です。

実際に、親事業者が売れ残った商品を下請事業者に返品し、下請代金を回収するというという例が起こっています。

下請業務の発注後に、発注内容を変更することは一般的に有り得ることであり、そのこと自体は下請法も禁止していません。

しかしながら、親事業者の都合で発注内容を変更したり、やり直しをさせたときに、変更・やり直しにかかる費用を下請事業者に負担させることは禁止されています(『4.不当な給付内容の変更・不当なやり直しの禁止』)。

支払い時

下請代金の支払いが遅延することは下請法で明確に禁止されています(『5.下請代金の支払い遅延の禁止』)。必ずしも経済的に余裕があるわけではない下請事業者にとって、親事業者からの支払いの遅れは、人件費や材料費の支払いの遅れに直結し、経営自体が危機にさらされることになりかねません。

発注後に行われる『6.下請代金の減額』も禁止されています。下請法の違反事例としてもっとも多いのがこの禁止事項の禁止です。代金自体を減額するものだけではなく、協賛金、リベートなど他の名目を用いて当初定めた下請代金を全額支払わない行為もこの禁止事項に違反したことになります。

その他、支払い時における禁止事項として、『7.有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止』『8.割引困難な手形の交付の禁止』があります。

その他

取引の流れとは、関係なく、下請事業者の利益確保の観点からも禁止事項が定められています。

下請契約とは、直接関係しない親事業者の商品やサービスの購入や利用を強制すること(『9.購入・利用強制の禁止』)が禁止されています。親事業者からすれば、契約という縁があった下請事業者にお願いベースで購入や利用を要請したとしても、立場の弱い下請事業者からすれば「その要請に応えなければ契約を取れないのでは?」「次回からは契約してもらえないのでは?」と考えてしまい、実質的に購入や利用が強制されてしまうことを防止しようという規定です。

契約の対価として、製品等の提供以外に不当な経済上の利益の提供を要請することも禁止されています(『10.不当な経済上の利益の提供要請の禁止』)。

例えば、親事業者が本来行うべき商品の陳列を下請事業者の従業員によって行わせるような場合、不当に労働力を提供させたとしてこの禁止規定にあたる可能性があります。

ここまで、説明してきたとおり、下請法には、様々な親事業者の義務や禁止事項が定められています。そして、下請事業者は親事業者がこの義務や禁止事項に違反していることを公正取引委員会に報告し、是正を図ってもらうことができます。

下請法は、そのようないわゆるタレこみを行った下請事業者に対し、親事業者が報復的に契約を打ち切ったりしないよう『11.報復措置の禁止』を定めています。

 

下請法に違反するとどうなるの?

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下請法違反を取り締まる機関は?

下請法違反を調査する機関は公正取引委員会です。また、調査の結果、下請法違反が認められた場合には、公正取引委員会から親事業者に対し、勧告、指導、罰金などの措置がとられます。

 

下請法違反はどのようにして発覚する?

調査や措置は公正取引委員会がやってくれるとして、下請法違反の調査はどのようにして始まるのでしょうか。

公正取引委員会は、①書面調査②下請事業者等からの申告③親事業者からの自発的な申出④中小企業庁長官からの措置請求を事件調査のきっかけとして調査を行っています。

フリーランサーのみなさんが取引相手の下請法違反を摘発しようとする場合には、公正取引委員会の本庁や各地にある地方事務所などに申告することによって適切な措置が受けられる可能性があります。

申告を行う場合には以下の情報を提供することが望ましいです。

  • 親事業者の概要(名称、所在地、資本金の額、事業概要等)
  • 下請事業者の概要(名称、所在地、資本金の額、事業概要等)
  • 取引の内容
  • 下請法違反と考える行為の内容

申告は、誰でも可能であり、取引の当事者である必要はありません。また、匿名での申告も可能です。

 

まとめ

下請法は、取引上、弱い立場にある事業者を守る法律です。主に個人事業主であるフリーランサーのみなさんはどうしても取引相手より資本力などにおいて弱い立場にあることが多いかと思います。自分の身を守り、事業によって適切な利益を上げるためにも、下請法は覚えておきたい知識です。

 

【執筆者】
楠瀬 健太(くすのせ けんた)

中央大学法学部を卒業後、一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。神奈川県下最大規模の弁護士数を誇る横浜綜合法律事務所に所属。労働問題を始めとする民事全般 から刑事事件まで幅広く取り扱っております。難しく思える法律をできる限り分かりやすくお伝えいたします。

▶所属している法律事務所:
横浜綜合法律事務所