本気のアニメ・ゲーム制作を複業で。クリエイターに必要なのは「共創」の意識

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「アニメの仕事をしたい」

と夢見る人も多い中、複業でアニメを使ったゲーム制作などを行っているのが吉川雅志さん。

複業であっても、チームを組成し、共創することで、限られた時間を有効に使えるという吉川さんに、両立の秘訣や創作にかける熱い想いをお聞きしました。

(実際の制作工程の成果物(原画・絵コンテ)をご提供いただき、末尾に掲載していますので、ぜひお楽しみに!)

複業だから自分の好きな仕事を追求

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どのような複業をしていますか

マルチメディアコンテンツ制作サークル「まよいせん」の代表として、アニメを使ったゲームなどをプロデュースしています。アニメ制作のほか、企業からの依頼を受け、実写でセミナー動画やミュージックPVの制作や演出、進行などを行うときもあります。

 

サークルなんですね。始めたきっかけは?

前職はTVアニメーション制作会社のディレクターでしたが、仕事とは別に「自分の好きな作品を作りたい」という想いがありました。

そのようなときに、友人のアニメーターとオリジナルアニメを作ろうという話で盛り上がったんです。でも、今は個人でも多くの人がアニメ作品を作っていますし、何かプラスαがないとなかなか注目されません。

そこで、いろいろな可能性を探るためにサークル「まよいせん」を立ち上げ、まずはアニメを使ったゲーム作りに取り掛かりました。そのうち、だんだん仲間が増えていって、結果的に30人ぐらいの協力のもと、2014年8月、ゲームアプリ『こいあい』序章をリリースしました。

 

『こいあい』はどのようなゲームですか

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※こいあいのDVDジャケット

いわゆる学園恋愛もののノベルゲームで、アニメのオープニング動画から始まります。当時のゲームアプリではボイスが無かったり、あってもメインのキャラクターのみだったりというケースが多かったのですが、『こいあい』では声優さんたちの協力があってフルボイスで完成させることができました。

 

―制作の舞台裏に興味があります。概要を教えていただけますか

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『こいあい』は4部構成で、これまでに序章と第1章を公開してきました。今度、第2章を公開し、最終章は来年中にリリースする予定です。制作にかかった費用は全体で200万円程度。そのうちアニメーション部分が150万円、そのほかのプログラミングやDVDのプレスで50万円ぐらいでした。

制作体制はコアメンバーが5人いて、プロデューサー、キャラクターデザイン、色彩設計、撮影、背景を役割分担しています。私はプロデューサーですが、できることは何でもやる!という感じで、シナリオライティングや作詞なども担当しました。

実働は、各セクションの下に紐づいている現場メンバーにお願いしています。メンバーはクラウドソーシングで募集し、作画マン、仕上げ(デジタルペイント)、声優兼歌手など、全体として200名くらいの大所帯。居住地も国内外いろいろで、普段はwebでコミュニケーションを取っています。

私は平日、本業が忙しくてあまり関われないので、主に移動中に進捗報告を見るなど、少し離れたところから見守っている感じです。みんな、それぞれにやりたいことがあって、どんどん進行していくので、逆に私が置いてけぼりになりそうなときもありますよ(笑)

 

―たくさんの人と協働して、チームで作品を完成させたわけですね

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運営はすごく大変でしたが、これも「良いものを創りたい」との想いから。自分一人では、絵は描けるけれど、それをアニメーションとして動かすことはできないし、声優のように声を吹き込むこともできません。だからこそ、自分が持っていないスキルを持つクリエイターと組むことでしか、大きな価値は生み出せないと考えています。

 

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※こいあいのイベント絵

 

そういった専門性の高いクリエイターで手を組むからこそ、例えば2人のクリエイターが揃った時に生み出される価値が単純に2倍ではなく、10倍またはそれ以上になる、という実感はありますね。一気に表現の幅が広がる、みたいな。

これからのクリエイターに必要なのは「共創」の意識。自分の専門性を高めつつ、弱みを補完するために、だれかと「共創」するものづくりが主流になっていくと思います。何より、課題を解決しながら、みんなで成長するみたいな空気がいいですね。

 

アニメを趣味ではなく仕事にできるのか

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趣味ではなく、仕事として捉えられているんですね 

当初、『こいあい』に関しては利益を求めていたわけではなくて、みんなのポートフォリオになる作品を作りたくて始めました。例えば声優さんなら自分のスキルを売り込む時、録音した音声をただ聞いてもらうより、声が入っている映像を見せる方が説得力は高いですから。 

この業界では、なかなか“ものにならない”という難しさがあります。だからこそ、自分の関わった作品が世に出るってとても大事なことだと思っていて。そのためなら、私が稼いだ金額はそのまま100%突っ込んでいいから、みんなで良い作品を創ろうと呼びかけました。

クリエイターさんには、売り上げを出せるようになってからは、きちんと報酬をお支払いしています。手を動かした人にちゃんと支払う、という前提は必要だと思うので。「まよいせん」での収入は人件費のほか、メンバーのパソコンやカメラなどの機材費、移動経費にほぼ消えていっています。

 

手厚いですね、びっくりです

クリエイターは義理と人情のつながり。「目指せ、さらに上!」という気持ちと、「お前のためなら24時間365日いつでも起きて仕事をしてやるぜ」みたいな熱いメンバーから「このパソコン、ちょっと動作が遅いんです」なんて言われたら、「分かった、新しいのを買ってやるから、その分、いい仕事をしてくれよ」みたいになっちゃうんですよね。

 

―つまり、吉川さんの手元にお金はあまり残らないわけですね

はい。「まよいせん」としては、だいたい年間200~300万円の売り上げがありますが、そこから経費や人件費を引いていくと、プラスマイナスゼロです。また複業ということで、利益重視というよりは「自分たちがやりたいか・やりたくないか」で受ける仕事を選んでいるので、売上高は大きく上下します。残ったお金も次の作品創りのための機材購入などに使ってしまっています。

アニメの仕事ってお給料が低いことが多くて、苦しんでいる絵描きさんはたくさんいます。でも、クラウドソーシングなどで発注されている仕事を見ていたら、いろいろな企業からの依頼もあって、ニーズはあるんですよね。

実際、ある絵描きさんに企業の仕事を紹介したら、「新しい可能性が見えた」と喜ばれた経験があって、みんなもっとプラスαのお金を増やしたり、スキルの幅を広げたりしたいんだなと思いました。そういう人たちの力になれるような仕事を提供していければ私自身は満足です。

 

―アニメに関連することで複業をしたくても、実際、どうしていいか分からない方も多いと思います。何かヒントはありますか

「共創したいけど、仲間がいない」とか、「今は手元にお金がない」という人たちは、利益目的というよりも、まずは「こういう作品を作りたい!」という意志ベースで仲間を募ってみると良いかもしれません。実際にアニメサークルへ問い合わせてみるのも一つの方法だし、Webであれば、PIXIV(絵)やニコニコ動画(動画)、サウンドクラウド(音楽)、cocommu(声優)などで、それぞれの人材を集めることができると思います。

 

達成感がたまらない

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本業との両立が大変なときもあるんじゃないでしょうか?

仕事に対する責任は本業であれ、複業であれ変わりません。複業にかける時間に制約があるのなら、自分がいかに動かずして良い品質の仕事ができるのかを考えればいいのかな、と。

実際、平日は忙しくて動けないので、複業は週末のどちらかでこなせるぐらいの仕事量に抑え、あとは人に依頼して進捗を見守るよう意識しています。 

とはいえ、「まよいせん」で作品を完成させるまでは、ほぼほぼ面倒くさいことばかりで、毎回、本当に大変です…。でも作品を“産み落とした”後の達成感はあって、最後の最後で満足はできるので、その楽しさのために、残りの99%の苦悩を受け入れている感じでしょうか。

複業で稼げるようになると、自分のスキルが社会から認められた結果だという自信にもつながります。「企業に勤めなくても、これだけ頑張れるんだ」という新しい目線や考え方が身につくのもメリットですね。

 

―作品づくりにかける吉川さんのスタンスとは?

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※イベント絵のラフ案

 

こう見えて、常に「新しい作品が作れるのか」とか、「リリースした作品が受け入れられるのか」といった不安を抱えているので…(笑)。だからこそ逆に「恥ずかしくないものを作ろう」、「恥ずかしくてもいいから今できる最高のものを」ということは強く意識するようになりました。

でも、どれだけ今のベストを尽くしても失敗はするし、批判されることもあります。そんな時は悪かった部分だけに目を向けるのではなく、「良かった部分」と「ダメだった部分」を冷静に見極めて、次の作品に活かす努力が必要ではないでしょうか。悶々としているだけでは絶対に上手くならないし、誰かから客観的な意見をもらうことも大切にしています。

 

最後に、今後の活動について教えてください

「まよいせん」では『こいあい』以外の作品も今、5本ぐらい同時進行していて、キャラクターデザインが上がっているものもあるので、続けてリリースできるよう頑張っていきたいですね。

個人的に現状では、「まよいせん」の活動は複業でできる範囲でやるのが大前提です。だからこそクラウドソーシングの力を借りて、私がディレクションしながら、みんなで一緒に作品を作る今のやり方が一番、効率が良いと思っています。

ただ今後、もし私が常駐してやらなければいけない大きな案件が来るなどしたら、本業の働き方そのものを変える選択はありうると思います。状況に応じて、本業と複業のバランスは都度、変えていくつもりです。

取材・文:吉岡名保恵

おまけ:こいあいのヒロイン・藤宮加奈がプロモーションムービーで動くまで

絵コンテ

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レイアウト

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原画

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動画

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色指定

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仕上げ

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撮影

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編集

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完パケ


【 こいあい koi-ai 序章 】プロモーションムービー

吉川 雅志(よしかわ まさし)

 

1987年生まれ。アニメーション制作会社を退職後、クラウドワークスに入社。エンタープライズ事業部ディレクター、動画コンテンツ推進室ディレクターを経て、現在はForge事業部ディレクター。

 

複業として、マルチメディアコンテツ制作サークル「まよいせん」の代表を務めている。小学生のころから図工や家庭科など、ものづくり系の科目が得意。病気で外に出られない時期を過ごした子ども時代、テレビから流れてくる勇者シリーズに夢中になったことが始まりで、高校生のときにはパソコンでアニメ制作を始めていた。

 

2017年5月31日に経済産業省が発表した「兼業・複業を通じた創業・新事業創出 事例集」では、「兼業・複業を通じて他 産業へ転職、兼業・複業で自社サービスを活用しサービス改善」した例として紹介されている。