
丸紅の穀物油糧部が新規事業として立ち上げたBeecoProgram。酪農畜産業界の生産者と金融機関をつなぐデータ統合プラットフォームを、フリーランスエンジニア4名を中心とする少数精鋭の開発チームで自社開発・安定稼働させています。
事業の立ち上げ期に不可欠な「高速プロトタイプ開発」を実践できる組織を、大企業の新規事業としてどう構築するか。
穀物油糧部事業開発課兼バリュークリエーションオフィス所属で開発責任者である櫻井裕規氏に、BeecoProgram誕生の経緯とクラウドワークス エージェントとの協働の実態を聞きました。
<導入前の課題>
・仕様を試行錯誤しながら固めていく立ち上げ期には「高速プロトタイプ開発」が必要不可欠だが、それを効率よく実践できる開発組織をどう構築すべきか悩んでいた
・少数精鋭で回すには、AI駆動型開発・フルスタック・CI/CDまでを一人で幅広くカバーできるエンジニアが必要だが、そうした人材はそもそも市場に希少で人材確保が困難だった
・大企業内での新規事業ゆえ、フリーランス活用にあたって社内プロセスや関係部門との調整が必要だった
<導入後の効果>
・求める技術スタック(AI駆動開発・CI/CD・フルスタック)に合致する人材をスピーディーにアサインしてもらえた
・従来見積もり「10人・2年」規模のプロジェクトを「3.5人・1年」で完了。サービスインフラも含めすべて自社開発で安定稼働
・営業部門でのフリーランス活用の前例を作り、丸紅におけるDX新規事業開発の社内モデルケース化に成功した
目次
商社が酪農業界へ踏み出した理由──とうもろこしの8割は家畜の飼料になる

──まず、BeecoProgramとはどのようなサービスか教えてください。
櫻井:BeecoProgramは、酪農畜産業界の生産者と、金融機関や飼料会社といったステークホルダーをデータでつなぐプラットフォームです。牧場の飼養状況や生産・財務成績を可視化し、AIを用いた深い分析や将来の収益見込みを提示するサービスを提供しています。
この事業が穀物油糧部から生まれたのには理由があります。私たちの本業は、北米や南米からトウモロコシ・小麦・大豆を買い付け、国内の飼料メーカーなどへ届ける「穀物商売」です。輸入されたトウモロコシの約8割は家畜の飼料に使われており、酪農畜産業界の持続的な発展が私たちの本業に直結しています。
──金融機関向けのサービスを中心に据えた背景には、どのような業界課題があったのですか。
櫻井:農業融資の担当者は、生産者と共に5年分の事業計画を作成するなど、農家との距離が非常に近い仕事をしており、農家への訪問や財務諸表のやり取りに膨大な労力を要します。酪農家は都市部から離れた場所に点在しているため、北海道では片道3時間かけて1日2件しか訪問できないケースもある。融資実行後の継続的なモニタリングも含めると、担当者の負担は相当なものです。
政府としても農業融資の拡大を後押しする流れ(※)があるにもかかわらず、金融機関側には「貸したいけれどリスクが怖い」という状況が続いていました。BeecoProgramでは、生産者がデータや書類をアップロードするだけで金融機関と自動的に共有される仕組みを構築し、AI-OCRでスマートフォン撮影やPDFから即座にデータ化することで、この課題に応えています。
(※) 2026年5月に交付された農業近代化資金融通法の一部改正による貸付限度額の大幅な引き上げ
当初は生産者向けのサービスを考えていましたが、すでに先行企業が存在していたんです。そのため、既存システムに蓄積されたデータを活用し、金融機関などのステークホルダーに価値を提供するモデルへとピボットしました。
「早く作って改善する」を大企業で実現する──フリーランス体制にたどり着くまでの試行錯誤

──開発体制はどのように変遷してきたのですか。
櫻井:最初は当社が出資するシステム開発会社でプロトタイプを作り、その後、サービスの本格展開にあわせてインフラ・セキュリティ基盤の強化が必要になり、大手システムインテグレーター (SIer)にも加わってもらいました。
ただ、立ち上げ期には「早く作って見せ、フィードバックを得て改善する」サイクルが重要です。そこで、基盤部分はSIerに支援してもらいながら、新規機能の開発はフリーランスのチームが担う体制へ移行しました。
フリーランスとビジネスメンバーが直接コミュニケーションを取りながら開発することで、スピーディーに改善を重ねられるようになり、今年度からは完全なフリーランス体制に切り替えています。
──大企業内でフリーランスとの直接契約という体制を実現するには、社内調整も相当大変だったのではないですか。
櫻井:確かに、丸紅の従来の進め方とは異なるため、社内プロセスを通すハードルが高かったのも事実です。ただ、以前にデジタルイノベーション部(現バリュークリエーションオフィス)がフリーランスと直接契約して開発を進めた前例があったことが、大きな後ろ盾となりました。
また、法務や情報企画などのコーポレート部門に早い段階から参画してもらい、社内規定に沿って都度すり合わせを重ねたことが鍵だったと思います。プロジェクト主宰の佐竹が社内の関係者を巻き込むのが非常に上手く、一つひとつ丁寧にクリアしていきました。その結果、営業部門でのフリーランス活用という新たな前例を作ることができ、私たちの体制が今後の新規事業開発における社内のモデルケースになりつつあると感じています。
──そのような中で、人材確保はどのようにアプローチしたのですか。
櫻井:酪農畜産業界の専門知識そのものを持つエンジニアを探すのは現実的ではありません。立ち上げ期に本当に必要なのは、「AI駆動型開発の実務経験がある人」「CI/CDやGitHubを活用した自動化に長けたフルスタックエンジニア」、つまり最新技術を自分でキャッチアップしながら即戦力として動ける人材です。その要件をクラウドワークス エージェントに相談することにしました。
「3.5人で1年」を実現した人材と働き方──クラウドワークス エージェントとの協働の実態

──クラウドワークス エージェントへの相談から、実際のアサインまではどのように進みましたか。
櫻井:求める人物像を伝えると、担当者の方が的確に理解してくださり、スピーディーにマッチングしていただけました。紹介いただいた方々は、AIツールを使いこなした開発実務経験をお持ちの方が多く、私たちのミッションにも共感してくれるなど、チームの雰囲気にもなじんでいます。
──フリーランスの方々と実際に働いてみての印象はいかがでしたか。
櫻井:プロジェクトベースで動くフリーランスの方は、「すぐにキャッチアップして価値を出さなければならない」というプロ意識が非常に強い。自分の技術で生計を立てているからこそ、最新動向のキャッチアップが早く、自身の仕事へのコミット力が高いと感じます。
また、エンジニアが要件定義の整理から開発、顧客からのフィードバック収集、再構築まで一貫して担当する体制にしています。自分の作ったシステムがビジネスにどう繋がるかが見えやすい環境に、楽しさを感じているメンバーも多いですし、主体性を引き出す土台になっています。
──チームとしての動き方も聞かせてください。
櫻井:フルリモートで、組織内に序列は設けていません。一方で、開発・ビジネス・カスタマーサポートのメンバーが参加するデイリーミーティングを設け、事業の状況をチーム全体で共有しています。また、「次世代の子どもたちの笑顔のために」というミッションへの共感も強く、月1回自主的に集まるメンバーもいます。
──その体制で、具体的にどのような成果が出ましたか。
櫻井:従来の見積もりでは「10人で2年かかる」はずだった規模のプロジェクトを、実質「3.5人で1年」で完了させることができました。エンジニア各自の能力の高さに加え、AI駆動型開発の成熟によって生産性が高まり、現在ではサービスインフラも含めてすべて自社開発で安定稼働しています。
大企業のアセットとフリーランスの技術力を掛け合わせる──丸紅の新規事業が示す、次の協業スタイル
──今後、フリーランス活用をどのように広げていきたいですか。
櫻井:エンジニア領域に限らず、北海道や九州など各地に根ざした営業や、カスタマーサクセスといった職種でも活用を広げていく予定です。当社が持つ事業基盤やビジネスネットワークと、フリーランスの専門性を掛け合わせることで、新たな価値を生み出したいと考えています。
今回のBeecoProgramでの取り組みは、丸紅における新規事業開発の一つのモデルになりつつあります。大企業がスタートアップ的なスピード感で動くためには、人材の柔軟な調達が不可欠です。そのパートナーとして、フリーランスとの協働の重要性はますます高まっていくとみています。
──同じように新規事業の立ち上げに取り組む大企業の方々へメッセージをお願いします。
櫻井:クラウドワークス エージェントの最大の強みは、担当者のレスポンスの早さと、求める人物像への的確なマッチング力だと思います。私たちを担当してくれている木下さんは、どんな依頼にも素早く動いてくれて、ニーズに合った人材を的確に紹介してくれるんです。その安心感と信頼感が、長くお付き合いしている理由でもあります。AI駆動開発やCI/CDの知見を持つエンジニアに限らず、CSや営業の専門スキルを持つ人材も、まずは一度相談してみることをおすすめしたいですね。
