留学や被災地支援を経て、翻訳・通訳を一生の仕事に―。専門分野を強みにしてずっと働き続けたい

f:id:p-journal:20180207093053j:plain

派遣やクラウドソーシングで翻訳・通訳の仕事をしているasacoyamamotoさん。

アメリカの留学から帰国後、NGO団体のスタッフとして東日本大震災の支援で被災地に滞在していたこともあります。そのときには、被災地でコンサートを開く海外アーティストの翻訳・通訳も手がけていたとか。

その後もさまざまな経験を積みながら、英語のスキルを生かした仕事を続けるasacoyamamotoさんにお話を伺いました。

英語のスキルを生かして被災地支援

f:id:p-journal:20180207091009j:plain


―通訳や翻訳のお仕事を手がけている、とのことですが、海外に行かれたご経験は?

昔から語学や海外に興味があって、大学ではフランス文学を専攻しました。異なる言語や宗教、文化を超えて、どのように人は分かり合えるのか、興味があったので、卒業後はアメリカに留学。カリフォルニア州の大学院で、異文化交流学を学びました。

 

―すごいですね。

考えたら即行動、というタイプなので(笑) 思い立ったら、すぐポンって感じで、新しい世界に飛び込んでいったかもしれないですね。

 

―留学中はどのような経験を?

ロサンゼルスはいろいろな人種の人が暮らしているので、さまざまなコミュニティに実習で行きました。修士論文を書くときには、ラテン系の人たちが暮らすコミュニティに1ヶ月間滞在したこともあります。

大学院に2年行ったあとも、インターンとして1年間、現地で働いていました。

―その後、ご帰国されてからはどのように?

帰国後は英語のスキルを生かした仕事をしたかったので、NGO団体のスタッフとして通訳や翻訳の仕事をしていました。2011年3月に東日本大震災が起きたあと、石巻市や大船渡市などで支援業務に携わったこともあります。

 

―そうだったんですね。どれぐらいの期間、被災地に行かれていたのですか?

2011年の7月から9ヶ月間です。

 

―結構、長い期間ですね。

私はクリスチャンで、学生のころから慈善活動などの経験はありました。震災で困っている方のお役に立ちたい、という想いは自然な流れだったと思います。

それに、東北には独特の文化がありますよね。時間をかけて現地の人たちと親しくなっていく過程では、大学院で学んだ異文化交流学の知識を生かせたのかな、と思いますし、自分の人生においてはとても貴重な経験でした。

 

―具体的には、どのような支援活動を?

海外の団体や企業からボランティアの申し出があったので、コーディネートして、被災家屋の泥だしや修繕、漁師の方の網の修理などをお手伝いしました。

あと、被災者の方にホットカーペットやこたつなどを配達しに行ったり、新しいお布団を仮設住宅に配布したり。

英語のスキルを生かす、という意味では、海外アーティストが来日して支援コンサートをするときの通訳・翻訳や、海外スタッフとのやりとり仲介なども担当しました。

 

―どのようなアーティストの方が来られたんですか?

私が通訳を担当したのはアルフィー・サイラスさんと、レーナ・マリアさんというシンガーでした。お2人とも日本がとても大好きな方で、被災地の方を励ましたい、という想いで来日されました。

スウェーデン人のレーナ・マリアさんは、生まれつき手足が不自由なのですが、歌手として世界的に有名です。その人生については伝記漫画にもなっているので、レーナさんのことを知っている子どもたちも聞きに来ていて。生の歌声をお届けできたのは本当に良かったと思います。

 

―英語のスキルを生かせる、やりがいのある仕事だったんですね。

はい。コンサートのあとに被災者の方たちから寄せ書きのプレゼントがあったのですが、その内容を翻訳してほしいと言われたり、取材のときには同行して通訳したり。依頼があればおみやげや、観光の手配をすることもありました。

今まで知らなかった世界を見せてもらったようでした。

 

―被災地での日々を振り返ってどうですか。

被災された方を励ますために行ったのに、地元の人たちから温かく迎えてもらって、逆に私が元気づけられました。

芋煮会とか、お正月のおもちつきとか、私にとっては初めての体験をさせてもらったし、仮設住宅に泊まらせてもらったこともあって、忘れられない思い出はたくさんあります。そのときお世話になった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

経歴や実績重視のクラウドソーシングに期待

f:id:p-journal:20180209124506j:plain

―被災地を支援するお仕事は、その後、どうなったのでしょうか。

2012年の4月ごろ、現地の様子も落ち着いてきたので、私の所属していたNGOは、いったん支援活動を終え、東京に引き上げることになりました。

被災地では事務所で寝泊まりし、休みという休みがないような毎日だったんですね。やりがいのある仕事だったのですが、東北と東京事務所の往復、海外スタッフの空港への送り迎えなど、日々移動やさまざまな人とのやりとりが多くて。精神的にも体力的にも疲れていたのも事実です。

それで東京に引き上げたあと、私自身は仕事を辞めて、神奈川の実家に戻る決断をしました。

 

―それで、新しいお仕事に?

はい。派遣でIT機器メーカーに勤めるようになり、マニュアルの翻訳を担当していました。そのときは自宅から近い勤務先で残業もなく、夜や週末に時間の余裕があったんです。

それで何かできるかな?と思ったときに、たまたま見たテレビ番組でクラウドソーシングについて知りました。「ネットを通して翻訳の仕事ってできるのかな」と思い、とりあえず登録だけしてみたんです。

 

―クラウドソーシングで仕事をしてみようと思ったのはどうしてですか?

派遣や契約社員だと「次の契約更新はないかもしれない。更新されなかったら、次はどんな仕事を、どうやって見つけよう」っていつも不安なんですよね。

年齢が上がるにつれて、仕事探しがどんどん困難になっていく実感もありましたし。 そもそも正社員でも、企業で働いている限りは定年がありますよね。私自身も自分の老後についてよく考えるんですが、やはり働ける限りは働きたい。

そんなときに見かけたテレビ番組では、定年退職後のお年寄りが、クラウドソーシングのシステムを使って、結婚式の招待状のあて名書きや、家具修理の仕事を請け負っていました。

それを見て「ウェブでの仕事なら、年齢・性別関係なく、経歴重視。むしろベテランだから有利なこともあるんじゃないか」って気づいたんです。

ゲームのセリフを翻訳する仕事が面白かった

f:id:p-journal:20180207091513j:plain


―クラウドソーシングに登録したあとは、どんな感じでしたか?

翻訳の仕事を求めて登録してみたものの、すぐにお仕事をいただけるわけではありませんでした。積極的に応募してみたんですが、実績がなかったためか、なかなか採用していただけなくて。

そんなとき、ようやくお仕事を依頼してくださる方が現れて。英語の論文が間違っていないかチェックする仕事だったんですが、初めてのご依頼だったので本当にありがたくて一生懸命にやりました。

すると、その1件をきっかけに、その後、いろいろな方からお仕事をいただけるようになったんです。

 

―やはり実績があるか、ないかがポイントなんですね。

もし私が仕事を依頼する立場なら、経歴を見て、たくさん実績があって、経験豊富な人に依頼したいと思うはず。やっぱり、最初の1件がないと、永遠に未経験のままなんですよね。

そういう意味で、最初は仕事を選ばず、何でもやらせていただこうと考えていました。

 

―クラウドソーシングで、どのようなお仕事を経験されましたか。

最初のころは自分の専門を持たず、依頼していただける仕事は全部受けていました。「口語的でカジュアルな感じで」とか、「若者が使うような言葉で」とか、クライアントさんによって注文はさまざま。

観光案内のパンフレットなら、分かりやすく観光地の魅力を伝える必要があるし、難しい論文なら専門用語を正しく使わなければいけないし。いろいろなジャンルの仕事を通じて、経験値を増やしていくことができました。

 

―印象に残っているお仕事はありますか。

とあるゲームの海外版を出す、という会社からのご依頼で、キャラクターのセリフをすべて英語に翻訳する、というお仕事をしたことがあります。ゲームは未経験の分野でしたが、やってみたらとても楽しくて。

 

―ゲームの翻訳のお仕事は、どういうところが楽しかったですか?

ゲームをプレイしている人が、どういう選択をするかによってストーリーも、エンディングも変わるんです。セリフ全部を訳すとなると、相当なボリュームでした。

でも、取り組んでいるうちに夢中になって、次の展開が気になったり、キャラクターに感情移入したり。あまりに面白くて、寝る間も惜しんで翻訳をしていたぐらいです。

泣いたり、笑ったりしながら翻訳していたので、人目を気にせず、自宅で仕事できて良かったなあ、と思いました(笑)

 

―英訳と和訳、どちらのお仕事もお請けになるんですか?

はい。どちらでもできるんですが、私の場合は、日本語から英語、という依頼が多いです。クライアントさんから、納品物をネイティブの人にチェックしてもらったら評判良かったです、など評価をいただけることもあります。

 

―コメントをいただけると、うれしいですね。

はい。翻訳は孤独な作業なので、最後にコメントをいただけるだけで、今までの苦労が報われる、というか。会社で仕事をしていると、直接、評価の声を聞くことは少ないので、クラウドソーシングの評価システムは励みになります。

専門スキルを高めるために派遣の仕事を継続

f:id:p-journal:20180209124540j:plain

―クラウドソーシングで翻訳の仕事を請けるメリットは、どのようなところだと思いますか?

オフィスでの翻訳は緊張感がありますし、分からないところを人に聞いたりしながら作業できるのは便利です。でも、周りの雑音が気になって集中できなかったり、通勤に時間が取られたり、というマイナス面もあります。

特に、翻訳で求人があるのは都心のオフィスが多いので、地方に住んでいる私は通勤だけで時間がかかってしまうのがデメリット。事故や混雑の多い路線なので遅延が多く、往復するだけで1日の大半が費やされることもあります。

それに派遣社員の場合、交通費は自己負担、というケースが多いので、都心に通うのは大きな出費です。お給料は時給換算ですから、電車の遅延であろうと、遅刻したらその分、お給料が減ってしまう、というリスクも。

そう考えれば、自宅でできるクラウドソーシングの仕事は、とても魅力的です。オフィスで人間関係のストレスに巻き込まれず、自分の仕事に集中できる、というメリットは大きいです。

 

―派遣のお仕事とクラウドソーシングを今も併用されているのですか?

はい。IT系の会社で1年半ほど派遣で働いたあと、次の仕事を探すまでの間、2ヶ月ほどはクラウドソーシングの仕事だけをしていました。その後、また派遣の仕事を始めて。

自動車会社で社内翻訳・通訳の業務に携わったあと、今はメディカル分野の会社で、医療翻訳をメインに手がけています。

 

―派遣のお仕事を続けているのはどうしてですか?

クラウドソーシングだけでやっていた時期も、たくさん依頼はいただいていました。ただ専門分野を持ちたかったので、まだしばらくは外で働いて、スキルを積もうと思いました。

 

―今の派遣のお仕事はどのような内容ですか?

今働いているのは、製薬会社が医薬品開発のために行う治験業務(臨床開発)を受託・代行する、いわゆるCROの会社です。

私は副作用や医師からの報告などの情報を翻訳したり、英語で報告書を作成したり。この仕事をもう少し続けてスキルを積んだら、医療系専門の翻訳家としてクラウドソーシングでも仕事を請けたいと思っています。

 

―専門はあった方がいいと?

そうですね。やみくもに手あたり次第、というよりは、分野を決めた方がスキルや知識を生かせると思います。でも、ゲームの翻訳のように、未知なる分野で仕事をしてみたら、意外にやりがいがあった、ということもありますよね。

そういう新しい仕事に出会えるのは、クラウドソーシングならでは、かもしれないですね。

微妙なニュアンス、読みやすさを重視

f:id:p-journal:20180207091605j:plain


―納品までのスピードはもちろん、質の高い翻訳で評価を受けていると聞いています。スキルアップのために、何か努力されていることはありますか?

翻訳者としてのスキルをはかる検定があるので、挑戦しています。ネットがあれば自宅で受験できて便利なんですよ。 あとは定期的に、翻訳・通訳者向けのセミナーに行っています。

同業者同士で、ソフトや辞書の活用方法とか、今どういう分野にニーズがあるとか情報交換して。交流会もあるので人脈が広がり、そのご縁でお仕事を紹介していただけることもあります。長くこの業界で働いているベテランの方のお話などは、とても参考になりますね。

 

―これからのお仕事に対して、夢や目標があれば教えてください。

今後も今の専門分野であるITと医療の2本の柱を軸に、さまざまな分野の翻訳を手がけていきたいと思っています。また、書籍やマニュアルなど、小さくても良いので、翻訳者として自分の名前が掲載されるようなお仕事をやってみたいですね。

パソコンやスマホを使えば、ある程度の翻訳は機械任せでできる時代になりました。でも、日本語には細かいニュアンスがあるので、機械の直訳だけだと拾いきれない表現があります。

読みやすさや分かりやすさを追求し、“こなれた”翻訳にするのは、まだまだ翻訳者の役割。だからこそ、日本語と英語、両方の表現を磨きながら、お客さまに喜んでいただける翻訳を手がけていきたいです。

 

―これからクラウドソーシングで翻訳の仕事を請けてみたい方に向けて、何かメッセージがあればお願いします。

通常は、年齢が上がるにつれて就職や通勤が厳しくなっていきます。でも、クラウドソーシングを使えば、年齢に関係なく仕事ができるので、ライフワークとして取り組んでみてはどうでしょうか。

ただ翻訳の仕事を自宅でやっていると引きこもりがちになってしまったり、昼夜逆転になってしまったり…。

そうならないよう、時間管理や頭の切り替えができれば大丈夫かな、と思いますね。私の場合は空いた時間にゴルフを楽しんでいて、お仕事では通訳の仕事も増やして、外へ出る機会を作っていきたいと考えています。

取材・文:吉岡名保恵

asacoyamamoto
大学でフランス文学専攻後、アメリカの大学院で異文化交流学の修士課程を卒業。1年間、アメリカでインターンを経験したのち帰国し、NGO団体で勤務。東日本大震災後、被災地での支援活動に関わり、被災者のためにコンサートを開くアーティストの通訳・翻訳も手がけた。その後は派遣の仕事でIT系企業、自動車会社、医療系企業で翻訳の仕事を継続。クラウドソーシングも併用しながらスキルアップを図っている。