漫画アプリ・comico PLUSで殿堂入りを果たしている、『アラキャバ!!』で人気のhico先生にお話をお伺いしました。同業者だけではなく、キャバ嬢のリアルを覗いてみたい一般の方にも大人気の『アラキャバ!!』。No.1キャバ嬢から漫画家への転身を遂げたhico先生のリアルをお届けします!
キャバ嬢から漫画家への転身
――キャバ嬢になる前はどんなお仕事をなさっていたのですか?
『アラキャバ!!』でも触れていますが、高校卒業からフリーターとして、色んな仕事を体験しました。
スポーツジムで水泳のインストラクターとか、アニメや漫画のグッズの中古ショップのコスプレ定員さんにチョコレートショップのカフェ店員。男装喫茶やラウンジ、キャバレー、ガールズバーを経て、フォトスタジオの正社員になり、カメラマンとヘアメイクを担当していたこともあります。
――色んな職業をご経験なさっているんですね!キャバ嬢になったのは正社員を辞めた後ですか?
そうですね、本職としてがっつりキャバ嬢をやるようになったのは正社員を辞めてからです。
最初に水商売の世界に入ったのは18歳の時で、その時はおもちゃ売り場との掛け持ちでした。
元々人と違うことをするのに憧れていたんです。
接客業が好きだったこともあって、凄いキラキラしてる水商売に興味を持ちました。「どんな世界なんかな??」って。
20代前半はやりたい仕事がありすぎて、どれか1個に絞るなんて出来なかったので「色々やってしまおう!」って。
――兼業ってお忙しいですよね
当時は朝から夕方までがお昼の仕事で、夜からお店に出勤して終電で帰宅していました。
6時間は寝ていたかな?
水商売の定休日って日曜日が多いので、日曜日はお休みでした。
28歳で漫画家としてデビュー
――漫画を描こうと思ったきっかけを教えてください
キャバクラのレギュラーを卒業して、28歳くらいの時かな?
一旦辞めたのですが、女の子が足りない時にヘルプで週2~3日だけ出勤を続けていました。
その時はまだ次に何をしようか考えていなかったのですが、学生の頃、漫画を描いていたこともあって、双子のお姉ちゃんであるリンちゃんに「comicoっていう漫画が投稿ができるアプリがあるよ!キャバクラのことを描いたら?」って勧められたんです。
日記を書く感じで、アウトプットをしたいと思って描きはじめました。
——いきなり漫画を描き始めたのですか?
実は高校の頃は漫画家を目指していた時期もあったんです。
独学で勉強していましたが、絵もストーリー作りも上手くできなくて「これじゃぁ無理だ」と思って諦めました。
親からも不安定な仕事だからと反対されていたというのもありましたが、親を説得するまでの熱もなく自信もなかったんです。
そんな自分でしたが、comicoに漫画を投稿して2話目で公式のお誘いを頂いて連載が決まりました。
「本当にこんな漫画で大丈夫かな?」と思いましたが「テーマも興味深くて色彩もテンポも良かった」と担当さんに言って頂けました。
――ツールはどんなものを使っているのですか?
デジタルで描いています。
ツールの使い方は、独学です。絵を描くソフト自体は、中学生くらいから使っていましたが最近のソフトは色んな機能があるので、実際に使ってみて覚えたり、ネットで調べたりして学びました。
連載を始めた時は、Corel(コーレル)のカラーペインターを使っていたのですが、絵を描くソフトだったので漫画制作には不向きだと気付き、リンちゃんにすすめられてCLIP STUDIO PAINT(クリスタ)に移行しました。多分連載はじめて3~4ヶ月くらいの時に変えた記憶があります。
――リンさんはアシスタントをしてくださったんですよね?
©hico/comico PLUS
全部の工程をひとりで行うのに限界を感じて、リンちゃんにカラーを手伝ってもらうことにしたんです。それもあってソフトをクリスタに移行しました。
色味が変わるので抵抗はあったのですが、「締め切り守れないのはあかん」と思って。(笑)
『アラキャバ!!』のカラーは単純に1色塗で、誰でもできる作業だったのでカラーをお願いしたり、背景を描いてもらったりしました。
当時の作業は、リンちゃんと2人暮らしだったので、自宅で行っていました。
支えてくれる双子の姉「リンちゃん」
――漫画家とキャバ嬢の兼業は大変でしたか?
今思えば大変でした。
特にキャバクラに出勤する日はお酒が入るので、帰ってきてからの仕事とか、翌日にお酒が残ったまま原稿に向かうのが、結構しんどかったですね。
当時は時間の管理がきちんと出来なくて生活がぐちゃぐちゃでした。
comicoのページ単位は紙の漫画とは違うのですが、40コマ前後を執筆していました。
普通、紙の漫画は1Pに6~8コマなので、6Pくらいを毎週書いていた計算ですね。
――兼業をしていて良かったことってありますか?
良かったのは、描いていた漫画がキャバクラのエッセイだったので、細かいところを目の前で見られて、感覚を忘れずにリアルな感じが出せたところだと思います。
似たような出来事があると「前にもこんなことあったな」って思い出せるのも良かったです。
――描いている漫画がお客さんにバレたりはしなかったんですか?
あえて言わなかったですね。
夜の人は、お客さんも女の子も変わった人が多いので。
バレたところで後ろめたいものはないけど、お店の女の子とかに何かあったら嫌だと思っていましたし、自衛の意味でも伝えることはしなかったです。
――水商売ってネガティブなイメージを持たれることがあるんですか?
私自身はそんなことなかったのですが、連載が始まってコメントを読んで「こういう風に思われてるんや」って、世間の水商売に対するネガティブなイメージを知りました。
また、水商売のどんな話を一般の方が求めているのかがイマイチわかってなくて、担当さんが、一般的に見た「キャバ嬢」の意見をくださったので、指標としていました。本当に助かりました。
――今はどんな働き方をなさっているのでしょうか?
今は新作準備中なのですが、専業なので起きて寝るまでは原稿を描いています。
『アラキャバ!! 』は体調のこともあって連載を終了したので、そんなにがっつりと働いてはいないのですが、週に1回は休むようにしています。
稼働する日は、1日8時間仕事をしています。
体力の限界もあるので、身体とも相談しながらですけどね。
――姉妹で働いていて良かったと思うことはありますか?
同じ場所で働いていたので、共通の会話ができるのは大きかったですね。
「店長がね」っていったときに、店長がどういう人か分かってもらえる。
愚痴を言い合えたり、お互いの仕事やプライベートの状況が分かったりするので助け合いができたので良かったです。
――リンちゃんは本当に大きな支えなんですね
はい。
心が折れたとき、ストレス発散がひとりカラオケなんですが、カラオケに行って、それでもダメだったら双子のリンちゃんに愚痴を聞いてもらって。
それでもダメだったら映画を見たりとか、気分転換をして自分がひとりにならないように、考え過ぎないように違うことをしていました。
私、兄弟が多いんですが、リンちゃんは兄弟の誰よりも仲が良いです。
単純に家族・お姉ちゃんではなく、家族以上、恋人まではいかないけど、お互いに心の支えになっているなと…ありがたい存在です。
――素敵なお姉さんですね
リンちゃんがいなかったら、漫画を描いていなかったですし、後押しをしてくれたのもリンちゃんなんです。
「大丈夫。やったらええやん」って。
そういうのもありがたいですよね。
いつでも背中を押してくれる存在です。
漫画家としての働き方
――職場はご自宅なのですよね?
家でできる仕事ですし、仕事場を借りる必要はないかなと思って。
気が散らないように、机の周りをカーテンで囲ったりはしていますけど。
よっぽど行き詰ったら外に出たりもしますが、基本は家で原稿作業をしています。
――打ち合わせもご自宅でなさるんですか?
打ち合わせは、担当さんが来て下さる時は外でします。
一度だけオンラインもありましたが、基本的には1~3ヶ月に1度くらいお会いして顔を合わせてネタ出しや、おおまかなストーリーラインを決めました。
それ以外はメールやLINEでネームを見て頂いて打ち合わせをしていました。
――自宅兼職場のメリットを教えてください
しんどくなったらすぐ横になれる!大事ですよね。
荷物を気にせずにいられるのも良い点だと思います。
仕事道具で場所を取るものは無いですしね。
今は液タブを使用しており、場所は取らないので机と椅子さえあれば描けます。(笑)
あとはハードディスクくらいですね、原稿を保存するための。
アナログのようにペンやインク、そしてトーンはないですし。
資料に使う雑誌があるくらいかな?現役のころから、「小悪魔ageha」とか読んでいたのですが、継続して読んで資料としていました。
専業漫画家として輝くために
――兼業の時のお給料はどのくらいの比率したか?
兼業の時はそんなにキャバクラに出ていないし、自分のお客さんを呼ばない出勤形態で、その場にいたお客さんを接客して帰る状態だったんです。
現役の感覚を保つためだけに行っていたようなものなので、収入は漫画の方がメインで、キャバはお小遣い程度のでした。
――壁にぶつかった経験はありますか?
担当さんには伝えていたのですが、comicoにはコメント欄があって、読者さんの感想がみられるのは嬉しいし、励みになりました。
一方、ネガティブな意見を見聞きしてしまったことがあって、へこんじゃったりもしたんですよ。
ありのままを描きたいと思って描いてましたが、私が思ったように伝わらないことも多くて。
全ての人に好かれるわけないって今は思うんですけどね。(笑)
連載中は少しでも多くの人に笑って読んでほしかったんですが、私の意図と反する受け取り方をされてしまったりすることが偶にあって、そこは笑ってほしかったなぁとか。
「伝わりやすい表現の工夫」に悩んだ時期がありました。
――今後の目標を聞かせてください
漫画では、まだいっぱい描きたいものがありますので、体調次第ですが描いていけたらなと思います。
同人誌とかで出したりとかも良いですね。積極的にアウトプットをしていきたいです。
――ちなみに、漫画以外の目標はありますか?
私自身、水商売で人間性とか価値観を育ててもらったところがあると思っていて。水商売にマイナスイメージはなくて、むしろ感謝をしているんです。
恩返しをするためにも、今水商売で働いている女の子たちのサポートができればなと。例えば営業方法を教えたり、話を聞いたり。そういう活動ができたらいいなと思っています。
――お店の先輩とかが教えてくれたりしないんですか?
私が働いていた時も、みんな仲間だけどライバルでした。
自分が売れないとお給料に反映されないので、誰の上に行くかが目標になってくるので、みんな自分の営業方法を言わないんですよね。
そして同じお店の女の子を本当の意味で信用できない…。
私にも経験がありますが、信用してた子にしか話さなかったことがネットの掲示板に書かれちゃったりするんですよ。「彼氏居ないって言ってるけどあの子今彼氏いるよ」とか。(笑)
そういう世界で一人で頑張るのってしんどいじゃないですか。
お店の外にそういう愚痴やもやもやを聞いてくれる相手がいるといいなぁと。私にとってのリンちゃんみたいな、そういう相手が。
悪い人に騙されたりする子もいるので、教えてあげて警戒して、誰かに搾取されることのないよう、きちんと自分を守るすべを身に着けて欲しいとも思います。そういうのも誰も教えてくれませんから。
働く女の子たちの何か支えになれたらいいなと思っています。
――最後に、漫画家に限らず「独立したい!」と思っているが、踏み切れない方に対してメッセージをお願いします
独立することは大変な決断だと思います。私も正社員を辞めて水商売に飛び込んだときや、水商売を上がって漫画を描き始めたときは本当に不安で、踏み出すのにとても勇気がいりました。正社員の頃は「今辞めたら次いつ正社員になれるか分からない。親にもがっかりさせてしまう」などマイナスなことばかりを考えてしまい、辞めたくても辞められない。その葛藤から自分自身潰れてしまったこともありました。
漫画の仕事を始める時は「漫画で食べていけるのか?」と思いました。
でも、「これをやりたい」ってことに出会えるのは素敵なことだと思います。マイナスなことや周囲の目は気にせずに思い切って飛び込んでみて欲しいなと思います。
――ありがとうございました!次回作も楽しみにしていますね。
ありがとうございます。
次回作は鋭意制作中なので、素敵な作品を届けられるように頑張ります!
質問に対して、丁寧かつテンポ良くお答えくださったhico先生。「リンちゃんと担当さん、そして温かいご家族と読者の方に支えられたからこそ、頑張ることができた」と笑顔で教えてくださいました。
取材・文:あおみ ゆうの
hico
元No.1キャバ嬢を経て漫画家に転身。キャバ嬢のリアルを描いた『アラキャバ!!』はcomico PLUSで殿堂入り。現在は新連載のために鋭意執筆中。
『アラキャバ!!』全86話:http://plus.comico.jp/manga/388/
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