AIやIoTなどのデジタル化が進むにつれ、AIの技術者やデータ分析を行う専門家も不足傾向にあり、社会問題になりつつあります。このような事態に、企業はどのように対応すればよいのでしょうか?この記事では、AI人材の不足の現状や人材確保の方法などについてご紹介します。
目次
AI人材は不足している?
日本におけるAI人材は、どのくらい不足しているのでしょうか。
日本のAI人材不足の現状
みずほ情報総研が2019年3月に発表した調査報告書「 IT 人材需給に関する調査」によると、2018年のAI人材は1.1万人。これが今後は大学や企業内育成により増加すると想定され、2025年には7.9万人、2030年には12.0万人まで増加すると見込まれています。
さらに、同報告書ではAI需要に対するAI人材数のギャップも算出しています。
2018年には3.4万人の需給ギャップ、つまり現状で3.4万人の不足となっています。今後の需給ギャップに関しては、報告書内で「平均」としているAI需要の伸び率が約16.1%に対し、生産性の上昇率が0.7%上昇すると仮定した場合、2018年に3.4万人だったAI人材不足が2030年には12.4万人になると推測されています。
明らかなAI人材不足が予測されている現在では、国や民間企業、大学などがそれぞれ対策を講じていますが、早急に手を打たないとさらに深刻なものとなる可能性があることが分かります。
AI人材は国際的な獲得競争に
日本におけるAI人材は、先進国の中でもっとも少ない部類になっています。たとえば、ドイツでは1988年にAI研究所を立ち上げ、マイクロソフトやアマゾンの研究開発拠点を誘致。2025年までにはAI分野に30億ユーロを投資するなど、国をあげて専門家の育成と人財確保に力を入れています。
一方の日本では、そもそもAIを学ぶ学生が少なく、人材育成の基盤もそれほど構築されていません。仮に優秀な人材があらわれたとしても、各国から億単位の年俸で引き抜かれることが多く、国際的な獲得競争になっているのが現状です。
政府のAI人材25万人育成計画とは
上述のような日本においてのAI人材育成の立ち後れを解決すべく、政府は「統合イノベーション戦略推進会議」を実施し、2019年4月18日には「AI戦略(人材育成関連)」について議論、検討を行いました。具体的な内容は以下のとおりです。
AI人材育成の目標人数
政府による人材育成戦略の主な取り組みは、「エキスパート」「応用基礎」「リテラシー」の大きな3つの柱に分類されています。
そして、「エキスパート」に属するAI人材のうち、トップクラスを年間100人程度、エキスパートクラスは年間2,000人程度を2025年までに育成するという目標を掲げています。また「応用基礎」のカテゴリーに含まれるAIの応用力人材では、年間で25万人の育成が目標です。
「読み・書き・そろばん」に位置づけ
「リテラシー」のカテゴリーでは、デジタル社会における「読み・書き・そろばん」の位置づけとなる「数理・データサイエンス・AI」の基礎習得を、小学生から社会人まで長期的に取り組むことを目標としています。
具体的には、小・中学校におけるIT教育環境の整備や、高校・大学におけるIT・AI関連学習の強化、認定制度や資格活用の促進などを進めるとし、年間で約100万人の育成を目指しています。
大学のリテラシーおよび応用基礎教育
「リテラシー」カテゴリーの大学におけるリテラシー、および応用基礎教育では、文系・理系を問わず、大学・高等専門学校の全学生にあたる年間約50万人に、初級レベルのAI知識を習得できるカリキュラムの導入や教材開発などの教育改革を行う、としています。
エキスパート教育
AI人材の最高峰となる「エキスパート」の教育では、年齢を問わず高度な能力や、突出したアイデア・技術を持つ人材が自由にその能力を伸ばせる環境づくりのほか、外国人材を含む国際化・多様性の促進・国際交流などの機会拡充などを掲げています。
企業がAI人材を確保する方法
日本におけるAI教育の取り組みは分かりましたが、では、このようなAI人材不足が深刻化する現在において企業はどのような方法でAI人材を確保しようとしているのでしょうか。
高報酬で募集
優秀な人材確保が国境を越えた争奪戦となっている現在においては、海外では億単位の報酬で引き抜きを行う事例もあるようです。
日本での事例としては、たとえばNTTドコモでは、優秀なAI人材を市場価値に応じた報酬で採用する人事制度を設定。完全年俸制、かつ、成果によって賞与が大きく変わる仕組みで、場合によっては年俸が3,000万円を超えることもあるようです。これはドコモの平均年収となる約874万円(2017年)の3倍超ですが、優秀な人材を確保したい裏付けでもあり、これだけ出さないと確保が難しい現状とも言えます。
IT企業とのM&A
資金力がある企業では、AI人材確保のためにM&Aを活用するところも出てきました。高報酬や好待遇だけでは必要とする人数の確保が難いためです。
たとえば、京セラコミュニケーションシステムは、AI関連のスタートアップであるRist(リスト、東京・目黒)をM&Aにより買収しました。企業の人材と技術をまるごと取り込むことで、自社の技術やサービス向上、製品強化につなげることを目的としています。
社内でAI人材を育成
AI人材と一口に言っても、AIを構築するプログラマー、AIが導き出した結果を分析するデータサイエンティスト、戦略プランナーなど、それぞれの専門家が必要となるのがAI分野。コンピュータ関連の知識だけでなく、統計学などのあらゆる分野に精通した人材が求められます。
このような中、長期的な視点に立って、AI人材を自社で育成し始めているところも出てきました。空調機器大手のダイキンは、社内大学となる「ダイキン情報技術大学」を2018年4月に開校。AIのスペシャリスト育成に力を入れはじめました。この大学では、2年間という時間をかけて新卒社員をAIの専門家として育成していきます。
企業にとってはかなりのコストがかかるとはいえ、将来的な市場変化を考え、今すぐにでも着手する必要がある経営施策だと判断されたことが分かる事例です。
クラウドソーシングを活用
AI人材を確保する手段のひとつとして、クラウドソーシングなどを活用して募集する方法もあります。実際、クラウドワークスに登録している個人やフリーランスを調べると、AI専門家として登録しているスペシャリストもいます。登録されているプロフィールを参考に、自社が抱える課題など案件ごとに依頼するという選択肢もあるので、ぜひ検討してみましょう。
まとめ
2030年には12.4万人が不足するといわれている日本のAI人材ですが、その対策や育成は諸外国よりも遅れており、ここ数年でようやく国をあげた対策が動き出しました。
一方で、今すぐ優秀な人材が欲しい企業では、高報酬・好待遇で採用したり、M&AでAIのスタートアップを買収したりなど、荒技で欲しい人材を確保しようとしています。社内大学を開校して自社育成をスタートした企業もありますが、社員募集以外で人材確保をしたい場合は、多数のスペシャリストが登録するクラウドソーシングなども検討してみましょう。
AIやIoTによる働き方改革の事例はこちらの記事をご覧ください。
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